2013年6月17日月曜日

乳がんです。と言われたら3:治療を受ける場所を決める

なんとなく、がんと乳がんのことを知ったならば、次のステップとしては基本的に治療を進めることになるでしょう。知識に関しては、治療を進めるに従ってイヤでも知ることになるので、この時点では、大まかなことがわかっていれば大丈夫だと思います。

「とはいっても、病院ってどこに行けばいいの?
 がんセンターとか、がん研とか、
 もしくは、よく乳がんの話で出てくるS国際病院とか、S大学病院とか、
 そういうところがやっぱりいいの?
 というか、そもそもこれまで病院に入院したことすらないんだけど?」

私もそうでした。

治療を受けるための施設選びは本当に難しく、いまだに私は自分の選択でよかったのかどうかがわかりません。しかし、いくつかの基準から、選択できるのではないかと考えています。

確定診断を受けた場所によって異なってくるとは思うのですが、確定診断を受けた後というのは、恐らく以下のどちらかの状態にいるのではないかと思います。

A 確定診断を受けた施設でそのまま治療を行える
B 確定診断を受けた施設では治療が行えない

Aは、それなりの規模の大きさがある病院やがんセンターのような所で確定診断を受けた場合に相当すると思います。確定診断と同時に、検査や手術の予定が入るかもしれません。その場所で治療をそのまま続けられるという状態です。ただし、施設によっては、このままここで治療を続けるかなど、意向を聞かれることもあるようですし、自分から違う施設で治療を受けたいと望むことももちろん可能です。

Bは、乳腺外科の外来専門クリニックなどで確定診断を受けた場合です。これは施設によっても違うと思うのですが、施設の先生が病院の外来などで患者を診察している場合、その病院を紹介されることもあります。ただし、基本的には、患者個人の希望でその先の治療を受ける施設を選ぶことができることが多いようです。

Aの希望者と、Bの全員は、次に治療を受ける施設を選択することになります。
そして、その先の治療に関しての希望は以下の2つが選択肢になると思います。

A 標準治療を受ける
B 標準治療以外の治療を受ける(受けたい治療方法が決まっている)

今回はAに関して、どのような選択方法があるかというのを考えてみます。


標準治療を受ける場所を探す

がんの治療の基本には「標準治療」が使われることが多いというのは先にも書いているとおりです。大抵の医師からまず示される治療方針も、標準治療にのっとったものになります。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される治療のことです。

標準治療を知る」にて、その内容を簡単にまとめていますが、これまでに多くの乳がん患者を対象に行われてきた臨床試験の結果をもとに検討がなされ、現時点で最善である、と専門家の間で合意が得られたものになります。標準治療は1つではなく、患者の乳がんの性質や進行度、年齢や身体状況によって異なります。そして、その標準治療をどう選択していくのかをまとめたものがガイドラインです。施設は標準治療を提供するための設備を整えて患者を受け入れ、診療する医師はガイドラインを参考に、治療方針を示します。

つまり、治療を受ける施設を選ぶにあたっては「施設」と「医師」の2つの側面から考える必要があると言えます。

施設に関して

  • がん診療連携拠点病院を調べる
  • マスコミの情報から調べる
  • 患者会などで口コミを聞く
「がん診療連携拠点病院」とは、質の高いがん医療の全国的な均てん化を図ることを目的に整備された病院のことです。その種類には、各都道府県に置く「都道府県がん診療連携拠点病院」があり、さらに都道府県をいくつかの地域に分け、その地域に置く「地域がん診療連携拠点病院」の2種類があります。例えば東京都には、2か所の都道府県がん診療連携拠点病院と、22か所の地域がん診療連携拠点病院があります。

詳しいがん診療連携拠点病院のリストはこちら(PDFファイルです)。
また、「がん情報サービス」の「病院を探す」からも検索できます(これ、超便利ですよ~)。

まず、このがん診療連携拠点病院に指定されるということは、その病院にて標準治療が提供されているということを意味します。詳しくはこちらを見ていただきたいのですが、指定要件として「集学的治療の提供体制及び標準的治療等の提供」が挙げられてます。つまり、施設を選ぶ際の基準の1つとして使えるはずです。

基本的によく名前が上がる施設は、このがん診療連携拠点病院であることがほとんどです。

ただし、このがん診療連携拠点病院はある一定の基準を満たしているものの、必ずしも「よい施設」というわけではないので、指定されていなくとも治療成績などが良い施設は存在します。そういった施設を拾うのに適しているのが、次に挙げた「マスコミの情報」です。

マスコミの情報としては、日本各地にある施設を独自調査や取材、そして任意のアンケートによりデータをまとめた、出版社などが作るムックがあります。例えば下に挙げるようなもののほかに、週刊誌などでの特集もマスコミの情報と言えるでしょう。



病院の実力 2013 総合編 (YOMIURI SPECIAL 73)
読売新聞東京本社





「乳がん」といわれたら- 乳がんの最適治療 2013~2014 完全版 (日経BPムック)
日経BP社



このようなムックでは、「がん診療連携拠点病院」はもちろん、それ以外の病院の存在そのものを知ったり、実情を知ったりするのに適しています。その他、医師が書いたり、監修したりした、病気に関する解説書籍などもあります。こういったものは、乳がんそのものに関しての理解は得られるかもしれませんが、あまり施設選びには適していないかもしれません。

マスコミの情報で1つ難しいのは、おそらく数字に関してはきちんと調査しているとは思うのですが、それ以外の記事に関する信頼性です。あまりこういうことを書くのはよくないと思いつつ、特にムックの場合は「広告」に近いものが混じっている可能性が高いのではないかと思っています。単なる推測ではあるのですが、例えば、1つの記事の中で複数の病院が紹介されている場合、広告的な内容である可能性は低いと思いますが、「治療方法の紹介」ではなく、「病院」1つを取り上げるような記事の場合は、ちょっと怪しいかなと。実際、「広告」と小さく入っている、まるで通常の記事のような体裁のものもありますし……。まあ、あまり気にすることではないのかもしれませんが、私自身が市販の商業出版物をあまり参考にしない理由はここにあります。


さらに最後の患者会ですが、日本には乳がんに関する患者会が複数あります。私は特にどの患者会にも属していないので、詳しいことは書けないのですが、すでに病院で治療を受けている方の体験談は、施設を選ぶ際にもきっと役立つはずです。特に、施設を選ぶ際にいくつか候補があり、どの施設も同じような水準の場合、非常に悩むかもしれません。そんな場合に、地域に根差した患者会にて、候補とした施設で治療を受けられている方がいらっしゃれば、詳しい話を患者目線で聞くことができるでしょう。それ以外にも、患者同士でしかわからない不安などを相談する先としても、大切な場所になるのだと思います。


医師に関して

  • 認定医・専門医・指導医で選ぶ
  • マスコミの情報から調べる
  • 患者会などで口コミを聞く

医師に関しては、日本乳癌学会の専門医であることを条件にしてよいのではないかと思います。日本乳癌学会は、医師だけでなく、関連施設の認定なども行っているので、これも合わせて確認してみるとよいでしょう。専門医に関しては、がん診察施設連携病院に指定される際の要件になっているようなので、がん診察連携拠点病院であれば、必ず専門医がいることでしょう。ただし、専門医であっても、人間性を認定しているわけじゃないのが、本当に困るんですよね。これはもう、会って話してみて、自分と合うか合わないか、というところに終始してしまうのではないかと思います。また、乳がんは術後10年をかけて予後を見ていくことになるので、できれば、現在は40代ぐらいの先生だと予後も最後まで見てもらえて安心など、選択肢になるのかもしれません。

それ以外に関しては、「施設に関して」と同じ内容なので、施設を医師に読み替えればよいのではないかと思います。そして、日本乳癌学会の専門医でなくても、乳腺専門の医師として優秀な方もいらっしゃるとは思います(ただし、施設に比べるとさらに少ないような気がします……)。また、患者会の方から聞く医師の人柄は、一番参考になりそうな気がするので、施設だけでなく、医師の評判なども口コミで確認してみるというのもよさそうです。ただし、人対人の場合、ある人が思った印象を自分も同じように思うとは限らないというのが難しいところですが……。


というわけで、治療を受ける場所を選ぶ際の基準として考えられるのは、
  • がん診療連携拠点病院から「施設」を選ぶ
  • 日本乳癌学会の専門医から「医師」を選ぶ
  • その他マスコミの情報や患者会での口コミなども参考にする
という、なんとなくまっとうな結論になってしまいましたね。しかし、このエントリーを書こうと思ってちらっと見てびっくりしたのが、がん診療連携拠点病院が院内データとして毎年登録を行っている「がん診療連携拠点病院院内がん登録全国集計」のすごさです。

基本的にがん診療連携拠点病院は、日本における5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)に関する、診断時の病期分類や行った治療方法などを毎年登録しているようなのですが、それを施設ごとに集計したものが公開されているのです。ただし、このデータには術式(温存か全摘か、再建したのか)などが集計されていないため、そのあたりは別途情報に当たらないといけないと思うのですが、この院内がん登録はかなり細かいデータだということを知り、非常に驚きました。どんな病期の人がどれだけ、どの施設で診察や治療を受けているのかというのは、施設を選択するときの参考にできますし、このデータは必見かもしれません。

また、各施設における、ステージごとの5年、10年生存率などに関しては、各施設でほぼ把握しているはずです。なので、公に公表はしていなくても、主治医やその施設の相談支援センターなどで聞けば、大まかな数字は教えてくれるものだと思います。というか、自分が実際に治療を受ける段階になっても、そういう数字を出せない、教えてくれない施設は、ちょっと不安が残るかもしれません。

どうしても標準治療なのか?

基本的に標準治療を選ばれる方が一番多いですし、通常、がん診療連携拠点病院の医師であれば、ファーストチョイスとして示す治療方針はガイドラインなどを参考にした、標準治療に則ったものになるでしょう。ただし、それがすべてではないということも、知っておいてよいと思うのです。つまり、「B 標準治療以外の治療を受ける(受けたい治療方法が決まっている)」を選ぶ場合ですね。

例えば、自分の乳房にどうしても傷を付けたくないのなら、ここでも紹介したとおり、それ相応の治療法はあります。ただし、その治療は標準治療ではないことも多く、受けられる場所も限られますし、臨床試験の段階にあったり、保険適用していない場合は自由診療になります。また、その治療方法にはまだ明確なエビデンスは存在していないに等しく、治療方法のメリット/デメリットも知っておく必要があります。そして、治療費用に関しても高額になる可能性が高いということなども理解したうえで選択するということになるでしょう。

また、ちょっと乱暴な言い方ですが、治療という選択肢があるのなら、無治療という選択肢も私は存在してよいと思っていて、それを尊重してくれる先生というのも必要じゃないかと思っています。なかなかこれは探すのが大変そうだとも思いますが……。

そして、何よりも大切なのは、
自分はどの施設で、どんな治療を、どの先生から受けるのかを
自分自身で決めるということです。

2013年6月12日水曜日

乳がんです。と言われたら2:情報を集める



「私はどうやら本当に乳がんみたい。
 乳がんにはいろいろな治療方法があると言われたけれど、
 これから、いったい、どうすればいいのだろう……?
 っていうか、私、死ぬの?!」

確定診断によって告知を受けた直後は、かなり混乱して、何から手を付けていいのかわからないかもしれません。毎晩、突然恐怖に襲われ、眠れない日々を送るかもしれません。

私もそうでした。

診断された際に説明があったかもしれませんが、乳がんというのは、昨日今日できるものではなく、1つのがん細胞から1センチの大きさのしこりになるまでに、7~8年かかると言われています(もちろん、例外もあるようですが)。

これは細胞分裂の速度から言われていることなのですが、乳がんの進行というのは、実際はかなりゆっくりです。診断とともに、検査や手術などの予定が入るかもしれませんが、これらすべてが診断当日には行われないものなので、考える時間はまだあるはずです。まずは、乳がんというがんに関する知識を得たり、今後のことを考えてみたりしましょう。

  • 乳がんに関する情報を集める
  • 治療をどこで受けるかを決める
  • 経済状況を確認する

今回はどうやって情報を集めればいいのか、私が個人的に「情報」として参考にしているサイトを2つ紹介します。

乳がんに関する情報を集める

「これから、いったい、私はどうすればいい?」と思うのは、当然のことなんじゃないかと思いますし、「落ち着いて」と言われても、そんな簡単に落ち着けるものではないはずです。そして、「乳がん」という単語がくるくると頭の中で回っているかもしれませんが、この際は「乳がん」という狭い範囲(とは言っても、乳がんだけにしぼっても、範囲はかなり広いんですけど)だけから物事を見るのではなく、まずは「がん」という病気そのものを取り巻く情報を知り、さらに「乳がん」を考えるというアプローチをとってみると、より理解が深まるような気がします。

がん情報サービス
個人的な観点ですが、日本で一番「がん」に関する情報が集まっているかつ、がんと診断されたら最初に勧めたいと思うのは、独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターの「がん情報サービス」です。

がん情報サービスには、がんと診断された方が必要とする情報が多角的にそろっています。それぞれの内容もかなりわかりやすいですし、何よりすべて無料で閲覧できるというのは利点です。さらに、冊子として配布されているPDFデータもダウンロードできるので、必要に応じて印刷して読むというのもよいと思います。

また、「がんと付き合う」のカテゴリーは、読み物としても充実しており、がんになった患者だけでなく、その家族や周囲の方にも有用だと思える内容がそろっています。がんになっても普通に働きながら治療を続けるというのは、思っていた以上に大変なことだと身を以て実感しています。「がんと共に働き、生きる」ことは、病気にはなってしまったものの、この年まで適当に生きてきた私にとって、これまでの人生とこの先の人生を深く見つめなおす機会でもあると思っています。

また、ちょっとマニアックにはなりますが、医療関係者向けにに公開しているグラフや数値などの統計データも見てみると結構興味深いです。このあたりは、普通の人にはあまり関係ないですね……。

乳がんに関する情報ももちろんありますので、まずは、ここから読んでみるのもいいかもしれません。


患者さんのための乳がん診療ガイドライン
そして、「乳がん」そのものに関しては、日本乳癌学会がまとめている「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」が最適だと思っています。書籍版もありますが、Webサイトでもほぼ同じものが閲覧できるようになっています。こちらは、2012年に発行されたものなので、比較的内容も新しく、乳がんになったら誰もが思うであろう疑問や不安などがQ&A形式にてまとめられており、非常に妥当な答えが書いてあります。文字だけでは理解しにくい箇所には、図版もふんだんに入っているので、理解しやすい体裁ではないでしょうか。

また、このガイドラインは、乳がんという病気の理解のために有用ですが、同時にこの先に行われる治療のおおまかな道しるべにもなるものです。さらに、主治医との治療を相談する際の根拠とするという使い方もできるでしょう。たとえば、どこかで聞きかじった話を主治医にしても、信ぴょう性がない話を医療従事者ではない患者がしているということで、あまり聞く耳を持ってくれないかもしれません。しかし、「『患者さんのための乳がんガイドライン』では、このような説明があったのですが、他のサイトでこの部分がこうだという話がありました。いったい、どちらが正しいのでしょうか?」といった感じに、ガイドラインを介して、聞きにくいことを聞きやすくするために使うということも考えられます。

個人的にこのガイドラインは、乳がんと診断されたときから今に至るまで、その節目節目にWebサイトにアクセスして、読んでいるような気がする、大切な1冊です。


informationとjournal、そしてidea

個人のblogを書いている私が、非常に矛盾した話をして申し訳ないのですが、個人的な戒めもかねてあえて書くと、個人のblogに書いてあることは、informationすなわち、情報ではないと思っています。私のblogも同じです。このblogに書いてあることは、情報ではなく、単なる記録とまとめで、だれかのためではなく、すべては自己満足のためです(ただし、私を知っている人に向けては書いているつもりです。その理由は後述)。

情報とは、辞書を引くと「ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識」と意味が記されています。今回紹介した2つのサイトは、多くの事実や医学的なエビデンスをもとにまとめられており、その妥当性も多数の専門家による客観的な検討によって裏付けられるなど、長い過程を経て公開されているものになるので、上記の「情報」の意味を満たしていると考えられるはずです。しかし、個人のblogというのは、そこからはちょっとずれているのではないかと思うのです。あくまでも個人の視点や体験に基づいた内容というのは、どれだけ「情報」の体裁であったとしても、それは主観性が強く、属人的で、客観性には欠けるのかなと。


なので、いろいろと考えてみたのですが、個人のblogというのは、上記の客観性などの観点から、informationというよりも、journal(日記)に相当するものなのではないかと。また、そこに書いてあったことが、どなたかの行動のきかっかけになったというのなら、たまたまその方にとって「idea」がそこにあったということではないかと思うのです。

なんだか否定的な話を書いてしまいましたが、同じ病気の方が書いているblogの日記や記録の内容を読むと、この先の治療が不安になることも多いと思います。とはいうものの、治療に関してblogを書くということは、書くことがある(順調に進んでいない)からという方もいて、そういった内容の文章に自分を重ね合わせて読むことで不安になってしまう……というあまりよくない循環が生まれることがあります(私もそうでした)。

そして、その背後には、blogに書くことがない(治療が順調に進んでいる)、乳がん患者さんがたくさんいるとも思うのです。たぶん、順調に治療が進んでいる乳がん患者さんというのは、表に出てきにくいものでもあるでしょう。もちろん、blogでは病気のことだけでなく、明るい日常を記されている患者さんもたくさんいらっしゃいますので、個人blogが不安をあおるだけのものではないことも事実です。ただ、この病気は、自分自身で、絶えず襲ってくる不安とどう向き合い、どうマネジメントするかということも実は重要なんじゃないかと最近は思うようになりました。そして、ちょっと視点を変えるだけで、不安を減らすことはできるのではないでしょうか。

情報は、自分にとって本当に有用であり、必要なものを選んでこそ、価値が生まれます。

そして、何よりも大切なのは、
その情報をどう選び、使うのかを決めるのは、あなただということです。

じゃあ、なんでblogを書いてるのよ、というのはMore以降で。単なる、言い訳ですが(笑)。