2013年7月1日月曜日

乳がんです。と言われたら4:治療費を考える



治療を受ける施設を決め、自分と相性のよさそうな主治医とも出会えたら、実際に治療を進めることになります。が、この辺りで気になりはじめるのは、いったい乳がんの治療にはいくらかかるんだろう?ということじゃないでしょうか。乳がんですと言われたら、経済状況の確認もどうしても必要になります。

「実は私、がん保険に入ってなかった……。
 乳がんの治療費っていったいいくらかかるんだろう?
 お金が足りなくなったら、どうしよう……。」

私もそうでした。

とりあえず、がん保険などに入っていた方で、そちらを頼ることができるならばよいとして、まったく生命保険や医療保険に入っていなかった場合は、治療費がどれくらいかかるのかということを考えなくてはならないでしょう。いや、本当に頭が痛い問題です……。

公的医療保険でどこまでまかなえるのか?
がんになった場合、標準治療を受けるのであれば、基本的にすべてに公的医療保険が適用されるので、被保険者は実際の医療費の3割を負担するだけで済みます。日本における公的医療保険は大きく分けて、自営業の方などが加入する国民健康保険と、会社員の方などが加入する組合などと呼ばれる健康保険、公務員の方が加入する共済組合の3つがあります。その差は以下の表で赤字にした部分です。

この中で病気により仕事ができない状態に支払われる「傷病手当金」は、国民健康保険にはない保障です。傷害手当金は、3日以上仕事を休んだ時に収入の3分の2(共済組合の場合は3分の2×1.25)を給付されるものです。傷病手当金は最大で18ヶ月支給されます。病気やケガなどで入院した場合などはもちろんですが、自宅療養などで会社に行く事ができなくなった場合でも支給されます。ただし、給料などの収入がある場合は減額されます。

療養の給付に関してはどの健康保険も同じで、被保険者とその扶養者は医療機関でかかる治療費の3割を自己負担します。ただし、この負担には上限があり、もし、健康保険が適用される数百万円の治療費がかかったとしても「高額療養費」の制度により、月の負担額は約8〜10万円ほどに抑えられます。

・高額療養費制度(すべての健康保険にある仕組み)
高額療養費制度とは、患者の医療費負担を一定額以下に抑えるための制度で、保険が適用される診療(保険診療)に含まれる全ての医療費に適用されるものです。この制度では、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1ヶ月間(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額が支給されます。通常、がんの標準治療はすべて保険診療になりますので、この高額療養費制度の対象になります。

70歳未満の方の保険診療における患者の自己負担は3割ですが、高額な医療費になった場合、3割負担でも結構な額になります。しかし、高額療養費制度があるおかげで、医療費が300万円になったとしても、実際の負担額は10万円台に抑えることができます。

この高額療養費制度は、毎月1日から末日までの1ヶ月を通して、複数の医療機関や院外処方などの薬剤代をすべて合算した金額に対して適用される制度です。この計算式は以下のようになります(70歳未満の場合)。

くわしくは、厚生労働省保険局の資料にありますので、こちらをご参照ください(PDFファイルです)。

また、「世帯合算」や「多数回該当」といった仕組みもあり、世帯で合算した金額を用いたり、直近の12ヶ月間に、既に3回以上高額療養費の支給を受けている場合(多数回該当の場合)には、その月の負担の上限額がさらに引き下がるという仕組みもあります。

なお、事前に「高額療養費限度額適用認定」を申請し、認定証を病院に提示しておけば、窓口支払の時に高額療養費制度の上限を超えた時点で、高額療養費制度が適用されますので支払いが不要になります。入院や放射線治療など、月間で高額療養費制度の上限を超えそうな場合は、先に認定証を提示しておくことをおすすめします。この提示がない場合は、いったん高額療養費の限度額を超えた分も支払った上で、健康保険からの支給を待つことになります(支給は通常受診した月から、3ヶ月ほどかかるようです)。

・付加給付金制度(国民健康保険、協会けんぽにはない仕組み)
上記の高額療養費制度を利用して医療費を最大限負担した場合でも、毎月の積み重ねは結構な額になります。その負担をさらに軽減するために付加給金(一部負担還元金や合算高額療養費付加金)という仕組みがあります。ただし、この付加給金は国民健康保険や協会けんぽ(中小企業の従業員が入る場合が多い)には用意されていないものです。組合の健康保険や、共済組合によってその金額などは異なるものの、基本的には同一の医療機関で約2万〜2万5000円程度を超えた医療費を支払った場合は、その金額がすべて戻ってくるという素晴らしい制度です。同一の医療機関とは、その医療機関により処方箋が出された院外処方の薬剤代も含みます。こちらも健康保険の組合などによりますが、受診した月から給付まで3ヶ月ほどかかります。

なお付加給金制度には、一部負担還元金や合算高額療養費付加金のほかに、差額ベッド代給付金や傷病手当金付加給付金、長期入院見舞金などが支給されることもありますが、これはその組合の健康保険によって異なります。一部負担還元金や合算高額療養費付加金はほとんどの組合健康保険や共済組合で支給されるようですが、それ以外に関してはその健康保険によって異なりますので、まずは調べてみることをお勧めします。

・確定申告による所得税減額(どの健康保険にも適用される仕組み)
これは上記の高額療養費制度とは別の制度になりますが、所得税や住民税の算定において、一定の金額が所得控除されます。毎年2月中旬から3月中旬に確定申告の時期がありますが、この確定申告において、1年間の医療費の支払いが高額になった場合、一定の所得控除が受けられるのです。

医療費控除の対象となる金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)です。さらに、その金額に所得税率をかけたものが、還付されます。

・実際に支払った医療費の合計額-(1の金額)-(2の金額)× 所得税率

1 生命保険金(がん保険)や健康保険などで補てんされる金額
※保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません
※つまり、乳がんに対して生命保険やがん保険などが支払われている場合、それ以外の病気などで医療機関に支払った治療費からその金額を差し引く必要はなく、すべて医療費として計算できます

2 10万円
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等5%の金額になります

年間15万円の医療費の場合、15万-10万=5万(控除金額)
所得税率を5万円にかけると還付金がわかります。所得税率はこちら
・所得税率が10%だとして、5万×10%=5000円還付
・所得税率が30%だとして、5万×30%=1万5000円還付

つーか、なんですか、高額所得者の方が還付金が多いのですか……。なぜに?!
ちなみに、還付金は5年前にまで遡って還付申告ができます。遡及して住民税も戻ってくるようです。

まとめですが、日本において、がんの標準治療を受けるのであれば、以下の2つまたは3つにより、医療費を軽減することができます。

・高額療養費制度
・付加給付金制度
・所得税減額

公的医療保険ですべてまかなった場合を試算
というわけで、もしも、がん保険などの生命保険に入ってなかった場合に、すべて同じ医療機関にかかり、公的医療保険で治療費をまかない、さらに毎月高額療養費制度+組合保険の一部負担還元金などの付加給金を受け、最後に所得税減税をした場合、いくらになるかというと……。

・年間で支払う金額
毎月2万円(組合健康保険の付加給金適用)×12(月)=24万円

・確定申告後に戻ってくる還付金(税率を20%とする)
24万円-10万円×20%=2万4000円

・最終的に支払った医療費総額
23万7600円21万6000円の間違いでした……すみません!

なんと、これぐらいで済んでしまうんですね。

あと、国民健康保険の場合も書いてみます(2013年7月9日、7月21日追記)----------
すみません、高額療養費限度額適用が4回目になると、最低額が引き下げられるの忘れてました……。

80,100円(高額療養費限度額適用認定を受ける最低額)×12(月)=96万1200円

80,100円(高額療養費限度額適用認定を受ける最低額)×3(月)=24万300円
44,400円(3回目以降の高額療養費限度額適用認定を受ける最低額)×9(月)=39万9600円
24万300+39万9600円=63万9900円


・確定申告後に戻ってくる還付金(税率を20%とする)
96万1200円-10万円×20%=17万2240円
63万9900円-10万円×20%=10万7900円

・最終的に支払った医療費総額
96万1200円-17万2240円=78万8960円
63万9900円-10万7900円=53万2000円

実際は、国民健康保険であっても、組合健康保険であっても、年間の保険料を計算したうえでないと、最終的な医療費はわかりませんが、医療機関に支払う金額「だけ」を見ると、国民健康保険はちょっと厳しい……ですね。
組合の健康保険制度は、やっぱり素晴らしいのかもしれません。

追記ここまで----------

安くはないのですが、びっくりするほど高くもないです。ただし、これはかなりミニマムな試算です。そもそも同一の医療機関だけにかかるということはあまりないですし、これ以外の医療費として控除できない医療費に関連するもの(差額ベッド代や医療用かつらなど)がありますので、これ以上になることはほぼ確実です。あ、乳房再建用のシリコンも、今日から保険適用になった(祝!)ので、また医療費に対する心配は少し減ったのかもしれません。

とは言いながら、最大限に公的医療保険を利用するのならば以下の2点に気をつけてみてはいかがでしょうか。

・なるべく同一の医療機関にかかる
同じ病院内の違う診療科にかかることで、合算ができます。

・高額療養費限度額適用認定や、一部負担還元金などの付加給金が給付される金額になるように、毎月の治療を考える
いや、これは実は難しい……かもしれません。が、連続通院の放射線治療なんかは、少しスケジュールを都合できたらいいなぁと、ふと思いました。

わわ、わたし、せこい!ですが、上記のことができれば、かなり医療費を節約できそうだなーと思いました。私はそこまでは面倒なので、きちんとできていないのですが……。

残念ながら、乳がんの治療にはお金がかかることは事実で、不安に感じるかもしれません。
不安を見えないままにせず、見える不安にすることで、何が必要かがわかってきます。
がん保険に入ってなくても、実際にかかる治療費は概算できます。

何よりも大切なのは、存在する制度を利用すれば、
ある程度は医療費を軽減できるということを知っておくことです。

2013年6月17日月曜日

乳がんです。と言われたら3:治療を受ける場所を決める

なんとなく、がんと乳がんのことを知ったならば、次のステップとしては基本的に治療を進めることになるでしょう。知識に関しては、治療を進めるに従ってイヤでも知ることになるので、この時点では、大まかなことがわかっていれば大丈夫だと思います。

「とはいっても、病院ってどこに行けばいいの?
 がんセンターとか、がん研とか、
 もしくは、よく乳がんの話で出てくるS国際病院とか、S大学病院とか、
 そういうところがやっぱりいいの?
 というか、そもそもこれまで病院に入院したことすらないんだけど?」

私もそうでした。

治療を受けるための施設選びは本当に難しく、いまだに私は自分の選択でよかったのかどうかがわかりません。しかし、いくつかの基準から、選択できるのではないかと考えています。

確定診断を受けた場所によって異なってくるとは思うのですが、確定診断を受けた後というのは、恐らく以下のどちらかの状態にいるのではないかと思います。

A 確定診断を受けた施設でそのまま治療を行える
B 確定診断を受けた施設では治療が行えない

Aは、それなりの規模の大きさがある病院やがんセンターのような所で確定診断を受けた場合に相当すると思います。確定診断と同時に、検査や手術の予定が入るかもしれません。その場所で治療をそのまま続けられるという状態です。ただし、施設によっては、このままここで治療を続けるかなど、意向を聞かれることもあるようですし、自分から違う施設で治療を受けたいと望むことももちろん可能です。

Bは、乳腺外科の外来専門クリニックなどで確定診断を受けた場合です。これは施設によっても違うと思うのですが、施設の先生が病院の外来などで患者を診察している場合、その病院を紹介されることもあります。ただし、基本的には、患者個人の希望でその先の治療を受ける施設を選ぶことができることが多いようです。

Aの希望者と、Bの全員は、次に治療を受ける施設を選択することになります。
そして、その先の治療に関しての希望は以下の2つが選択肢になると思います。

A 標準治療を受ける
B 標準治療以外の治療を受ける(受けたい治療方法が決まっている)

今回はAに関して、どのような選択方法があるかというのを考えてみます。


標準治療を受ける場所を探す

がんの治療の基本には「標準治療」が使われることが多いというのは先にも書いているとおりです。大抵の医師からまず示される治療方針も、標準治療にのっとったものになります。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される治療のことです。

標準治療を知る」にて、その内容を簡単にまとめていますが、これまでに多くの乳がん患者を対象に行われてきた臨床試験の結果をもとに検討がなされ、現時点で最善である、と専門家の間で合意が得られたものになります。標準治療は1つではなく、患者の乳がんの性質や進行度、年齢や身体状況によって異なります。そして、その標準治療をどう選択していくのかをまとめたものがガイドラインです。施設は標準治療を提供するための設備を整えて患者を受け入れ、診療する医師はガイドラインを参考に、治療方針を示します。

つまり、治療を受ける施設を選ぶにあたっては「施設」と「医師」の2つの側面から考える必要があると言えます。

施設に関して

  • がん診療連携拠点病院を調べる
  • マスコミの情報から調べる
  • 患者会などで口コミを聞く
「がん診療連携拠点病院」とは、質の高いがん医療の全国的な均てん化を図ることを目的に整備された病院のことです。その種類には、各都道府県に置く「都道府県がん診療連携拠点病院」があり、さらに都道府県をいくつかの地域に分け、その地域に置く「地域がん診療連携拠点病院」の2種類があります。例えば東京都には、2か所の都道府県がん診療連携拠点病院と、22か所の地域がん診療連携拠点病院があります。

詳しいがん診療連携拠点病院のリストはこちら(PDFファイルです)。
また、「がん情報サービス」の「病院を探す」からも検索できます(これ、超便利ですよ~)。

まず、このがん診療連携拠点病院に指定されるということは、その病院にて標準治療が提供されているということを意味します。詳しくはこちらを見ていただきたいのですが、指定要件として「集学的治療の提供体制及び標準的治療等の提供」が挙げられてます。つまり、施設を選ぶ際の基準の1つとして使えるはずです。

基本的によく名前が上がる施設は、このがん診療連携拠点病院であることがほとんどです。

ただし、このがん診療連携拠点病院はある一定の基準を満たしているものの、必ずしも「よい施設」というわけではないので、指定されていなくとも治療成績などが良い施設は存在します。そういった施設を拾うのに適しているのが、次に挙げた「マスコミの情報」です。

マスコミの情報としては、日本各地にある施設を独自調査や取材、そして任意のアンケートによりデータをまとめた、出版社などが作るムックがあります。例えば下に挙げるようなもののほかに、週刊誌などでの特集もマスコミの情報と言えるでしょう。



病院の実力 2013 総合編 (YOMIURI SPECIAL 73)
読売新聞東京本社





「乳がん」といわれたら- 乳がんの最適治療 2013~2014 完全版 (日経BPムック)
日経BP社



このようなムックでは、「がん診療連携拠点病院」はもちろん、それ以外の病院の存在そのものを知ったり、実情を知ったりするのに適しています。その他、医師が書いたり、監修したりした、病気に関する解説書籍などもあります。こういったものは、乳がんそのものに関しての理解は得られるかもしれませんが、あまり施設選びには適していないかもしれません。

マスコミの情報で1つ難しいのは、おそらく数字に関してはきちんと調査しているとは思うのですが、それ以外の記事に関する信頼性です。あまりこういうことを書くのはよくないと思いつつ、特にムックの場合は「広告」に近いものが混じっている可能性が高いのではないかと思っています。単なる推測ではあるのですが、例えば、1つの記事の中で複数の病院が紹介されている場合、広告的な内容である可能性は低いと思いますが、「治療方法の紹介」ではなく、「病院」1つを取り上げるような記事の場合は、ちょっと怪しいかなと。実際、「広告」と小さく入っている、まるで通常の記事のような体裁のものもありますし……。まあ、あまり気にすることではないのかもしれませんが、私自身が市販の商業出版物をあまり参考にしない理由はここにあります。


さらに最後の患者会ですが、日本には乳がんに関する患者会が複数あります。私は特にどの患者会にも属していないので、詳しいことは書けないのですが、すでに病院で治療を受けている方の体験談は、施設を選ぶ際にもきっと役立つはずです。特に、施設を選ぶ際にいくつか候補があり、どの施設も同じような水準の場合、非常に悩むかもしれません。そんな場合に、地域に根差した患者会にて、候補とした施設で治療を受けられている方がいらっしゃれば、詳しい話を患者目線で聞くことができるでしょう。それ以外にも、患者同士でしかわからない不安などを相談する先としても、大切な場所になるのだと思います。


医師に関して

  • 認定医・専門医・指導医で選ぶ
  • マスコミの情報から調べる
  • 患者会などで口コミを聞く

医師に関しては、日本乳癌学会の専門医であることを条件にしてよいのではないかと思います。日本乳癌学会は、医師だけでなく、関連施設の認定なども行っているので、これも合わせて確認してみるとよいでしょう。専門医に関しては、がん診察施設連携病院に指定される際の要件になっているようなので、がん診察連携拠点病院であれば、必ず専門医がいることでしょう。ただし、専門医であっても、人間性を認定しているわけじゃないのが、本当に困るんですよね。これはもう、会って話してみて、自分と合うか合わないか、というところに終始してしまうのではないかと思います。また、乳がんは術後10年をかけて予後を見ていくことになるので、できれば、現在は40代ぐらいの先生だと予後も最後まで見てもらえて安心など、選択肢になるのかもしれません。

それ以外に関しては、「施設に関して」と同じ内容なので、施設を医師に読み替えればよいのではないかと思います。そして、日本乳癌学会の専門医でなくても、乳腺専門の医師として優秀な方もいらっしゃるとは思います(ただし、施設に比べるとさらに少ないような気がします……)。また、患者会の方から聞く医師の人柄は、一番参考になりそうな気がするので、施設だけでなく、医師の評判なども口コミで確認してみるというのもよさそうです。ただし、人対人の場合、ある人が思った印象を自分も同じように思うとは限らないというのが難しいところですが……。


というわけで、治療を受ける場所を選ぶ際の基準として考えられるのは、
  • がん診療連携拠点病院から「施設」を選ぶ
  • 日本乳癌学会の専門医から「医師」を選ぶ
  • その他マスコミの情報や患者会での口コミなども参考にする
という、なんとなくまっとうな結論になってしまいましたね。しかし、このエントリーを書こうと思ってちらっと見てびっくりしたのが、がん診療連携拠点病院が院内データとして毎年登録を行っている「がん診療連携拠点病院院内がん登録全国集計」のすごさです。

基本的にがん診療連携拠点病院は、日本における5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)に関する、診断時の病期分類や行った治療方法などを毎年登録しているようなのですが、それを施設ごとに集計したものが公開されているのです。ただし、このデータには術式(温存か全摘か、再建したのか)などが集計されていないため、そのあたりは別途情報に当たらないといけないと思うのですが、この院内がん登録はかなり細かいデータだということを知り、非常に驚きました。どんな病期の人がどれだけ、どの施設で診察や治療を受けているのかというのは、施設を選択するときの参考にできますし、このデータは必見かもしれません。

また、各施設における、ステージごとの5年、10年生存率などに関しては、各施設でほぼ把握しているはずです。なので、公に公表はしていなくても、主治医やその施設の相談支援センターなどで聞けば、大まかな数字は教えてくれるものだと思います。というか、自分が実際に治療を受ける段階になっても、そういう数字を出せない、教えてくれない施設は、ちょっと不安が残るかもしれません。

どうしても標準治療なのか?

基本的に標準治療を選ばれる方が一番多いですし、通常、がん診療連携拠点病院の医師であれば、ファーストチョイスとして示す治療方針はガイドラインなどを参考にした、標準治療に則ったものになるでしょう。ただし、それがすべてではないということも、知っておいてよいと思うのです。つまり、「B 標準治療以外の治療を受ける(受けたい治療方法が決まっている)」を選ぶ場合ですね。

例えば、自分の乳房にどうしても傷を付けたくないのなら、ここでも紹介したとおり、それ相応の治療法はあります。ただし、その治療は標準治療ではないことも多く、受けられる場所も限られますし、臨床試験の段階にあったり、保険適用していない場合は自由診療になります。また、その治療方法にはまだ明確なエビデンスは存在していないに等しく、治療方法のメリット/デメリットも知っておく必要があります。そして、治療費用に関しても高額になる可能性が高いということなども理解したうえで選択するということになるでしょう。

また、ちょっと乱暴な言い方ですが、治療という選択肢があるのなら、無治療という選択肢も私は存在してよいと思っていて、それを尊重してくれる先生というのも必要じゃないかと思っています。なかなかこれは探すのが大変そうだとも思いますが……。

そして、何よりも大切なのは、
自分はどの施設で、どんな治療を、どの先生から受けるのかを
自分自身で決めるということです。

2013年6月12日水曜日

乳がんです。と言われたら2:情報を集める



「私はどうやら本当に乳がんみたい。
 乳がんにはいろいろな治療方法があると言われたけれど、
 これから、いったい、どうすればいいのだろう……?
 っていうか、私、死ぬの?!」

確定診断によって告知を受けた直後は、かなり混乱して、何から手を付けていいのかわからないかもしれません。毎晩、突然恐怖に襲われ、眠れない日々を送るかもしれません。

私もそうでした。

診断された際に説明があったかもしれませんが、乳がんというのは、昨日今日できるものではなく、1つのがん細胞から1センチの大きさのしこりになるまでに、7~8年かかると言われています(もちろん、例外もあるようですが)。

これは細胞分裂の速度から言われていることなのですが、乳がんの進行というのは、実際はかなりゆっくりです。診断とともに、検査や手術などの予定が入るかもしれませんが、これらすべてが診断当日には行われないものなので、考える時間はまだあるはずです。まずは、乳がんというがんに関する知識を得たり、今後のことを考えてみたりしましょう。

  • 乳がんに関する情報を集める
  • 治療をどこで受けるかを決める
  • 経済状況を確認する

今回はどうやって情報を集めればいいのか、私が個人的に「情報」として参考にしているサイトを2つ紹介します。

乳がんに関する情報を集める

「これから、いったい、私はどうすればいい?」と思うのは、当然のことなんじゃないかと思いますし、「落ち着いて」と言われても、そんな簡単に落ち着けるものではないはずです。そして、「乳がん」という単語がくるくると頭の中で回っているかもしれませんが、この際は「乳がん」という狭い範囲(とは言っても、乳がんだけにしぼっても、範囲はかなり広いんですけど)だけから物事を見るのではなく、まずは「がん」という病気そのものを取り巻く情報を知り、さらに「乳がん」を考えるというアプローチをとってみると、より理解が深まるような気がします。

がん情報サービス
個人的な観点ですが、日本で一番「がん」に関する情報が集まっているかつ、がんと診断されたら最初に勧めたいと思うのは、独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターの「がん情報サービス」です。

がん情報サービスには、がんと診断された方が必要とする情報が多角的にそろっています。それぞれの内容もかなりわかりやすいですし、何よりすべて無料で閲覧できるというのは利点です。さらに、冊子として配布されているPDFデータもダウンロードできるので、必要に応じて印刷して読むというのもよいと思います。

また、「がんと付き合う」のカテゴリーは、読み物としても充実しており、がんになった患者だけでなく、その家族や周囲の方にも有用だと思える内容がそろっています。がんになっても普通に働きながら治療を続けるというのは、思っていた以上に大変なことだと身を以て実感しています。「がんと共に働き、生きる」ことは、病気にはなってしまったものの、この年まで適当に生きてきた私にとって、これまでの人生とこの先の人生を深く見つめなおす機会でもあると思っています。

また、ちょっとマニアックにはなりますが、医療関係者向けにに公開しているグラフや数値などの統計データも見てみると結構興味深いです。このあたりは、普通の人にはあまり関係ないですね……。

乳がんに関する情報ももちろんありますので、まずは、ここから読んでみるのもいいかもしれません。


患者さんのための乳がん診療ガイドライン
そして、「乳がん」そのものに関しては、日本乳癌学会がまとめている「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」が最適だと思っています。書籍版もありますが、Webサイトでもほぼ同じものが閲覧できるようになっています。こちらは、2012年に発行されたものなので、比較的内容も新しく、乳がんになったら誰もが思うであろう疑問や不安などがQ&A形式にてまとめられており、非常に妥当な答えが書いてあります。文字だけでは理解しにくい箇所には、図版もふんだんに入っているので、理解しやすい体裁ではないでしょうか。

また、このガイドラインは、乳がんという病気の理解のために有用ですが、同時にこの先に行われる治療のおおまかな道しるべにもなるものです。さらに、主治医との治療を相談する際の根拠とするという使い方もできるでしょう。たとえば、どこかで聞きかじった話を主治医にしても、信ぴょう性がない話を医療従事者ではない患者がしているということで、あまり聞く耳を持ってくれないかもしれません。しかし、「『患者さんのための乳がんガイドライン』では、このような説明があったのですが、他のサイトでこの部分がこうだという話がありました。いったい、どちらが正しいのでしょうか?」といった感じに、ガイドラインを介して、聞きにくいことを聞きやすくするために使うということも考えられます。

個人的にこのガイドラインは、乳がんと診断されたときから今に至るまで、その節目節目にWebサイトにアクセスして、読んでいるような気がする、大切な1冊です。


informationとjournal、そしてidea

個人のblogを書いている私が、非常に矛盾した話をして申し訳ないのですが、個人的な戒めもかねてあえて書くと、個人のblogに書いてあることは、informationすなわち、情報ではないと思っています。私のblogも同じです。このblogに書いてあることは、情報ではなく、単なる記録とまとめで、だれかのためではなく、すべては自己満足のためです(ただし、私を知っている人に向けては書いているつもりです。その理由は後述)。

情報とは、辞書を引くと「ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意思決定をするために役立つ資料や知識」と意味が記されています。今回紹介した2つのサイトは、多くの事実や医学的なエビデンスをもとにまとめられており、その妥当性も多数の専門家による客観的な検討によって裏付けられるなど、長い過程を経て公開されているものになるので、上記の「情報」の意味を満たしていると考えられるはずです。しかし、個人のblogというのは、そこからはちょっとずれているのではないかと思うのです。あくまでも個人の視点や体験に基づいた内容というのは、どれだけ「情報」の体裁であったとしても、それは主観性が強く、属人的で、客観性には欠けるのかなと。


なので、いろいろと考えてみたのですが、個人のblogというのは、上記の客観性などの観点から、informationというよりも、journal(日記)に相当するものなのではないかと。また、そこに書いてあったことが、どなたかの行動のきかっかけになったというのなら、たまたまその方にとって「idea」がそこにあったということではないかと思うのです。

なんだか否定的な話を書いてしまいましたが、同じ病気の方が書いているblogの日記や記録の内容を読むと、この先の治療が不安になることも多いと思います。とはいうものの、治療に関してblogを書くということは、書くことがある(順調に進んでいない)からという方もいて、そういった内容の文章に自分を重ね合わせて読むことで不安になってしまう……というあまりよくない循環が生まれることがあります(私もそうでした)。

そして、その背後には、blogに書くことがない(治療が順調に進んでいる)、乳がん患者さんがたくさんいるとも思うのです。たぶん、順調に治療が進んでいる乳がん患者さんというのは、表に出てきにくいものでもあるでしょう。もちろん、blogでは病気のことだけでなく、明るい日常を記されている患者さんもたくさんいらっしゃいますので、個人blogが不安をあおるだけのものではないことも事実です。ただ、この病気は、自分自身で、絶えず襲ってくる不安とどう向き合い、どうマネジメントするかということも実は重要なんじゃないかと最近は思うようになりました。そして、ちょっと視点を変えるだけで、不安を減らすことはできるのではないでしょうか。

情報は、自分にとって本当に有用であり、必要なものを選んでこそ、価値が生まれます。

そして、何よりも大切なのは、
その情報をどう選び、使うのかを決めるのは、あなただということです。

じゃあ、なんでblogを書いてるのよ、というのはMore以降で。単なる、言い訳ですが(笑)。

2013年5月15日水曜日

乳がんです。と言われたら1:とりあえず質問してみる

「残念ながら、乳がんです」

ある程度覚悟していたかもしれないし、そんなわけないしと思っていたかもしれません。
いずれにせよ、15人に1人の「1人側」になってしまうこと、それが告知です。
「1人側」にぜひ入りたかった人というのは、おそらくいないことでしょう。
もちろん、「14人側」に入りたかったですよね。
でも、残念ながら「1人側」に入ってしまったということです。

告知をどのように受け止めればいいのか、それは私にもわかりません。
そもそも、正しい告知の受け止め方というのはあるのでしょうか?

私のように1人で告知を聞く人もいれば、家族やパートナー、友人と一緒に告知を聞く人もいるだろうし、先生がどのように伝えるかで、捉え方や感じ方も変わるでしょう。

頭の中が真っ白になってしまうかもしれないし、涙がこぼれてしまうかもしれません。
今までにないくらいのショックを受けたあげくに、「死」という恐怖が襲ってくるかもしれません。

私も、そうでした。

しかし、私が知っている限り、意外と冷静な人もいます。
もし、告知を受けても、思考回路が大丈夫そうな感じだったら、次の2つのことを担当医に聞いてみましょう。ただし、そんな簡単に冷静になれるものではないのも事実なので、この先の検査や診察のときに、日を改めて質問することもできるでしょう。

  • 私は本当に乳がんなのですか?
  • どのような治療が行われるのですか?

私は本当に乳がんなのですか?


実は乳がんには、それなりの割合で誤診があるといわれています。
なので、担当医に乳がんという確定診断にいたった経緯をもう一度聞いてみましょう。

マンモグラフィーやエコーの画像による診断はもちろん、必ず細胞や組織を取って病理診断もしていると思いますので、確定診断にいたる経緯があるはずです。その経緯を教えてもらい、疑問に思うところがあるのなら質問してみましょう。

担当医の自分の乳がんに対する診断がどれだけ確実なのかを知ることで、自分はがんなのだと確信を持てます。すると、腹がすわり、落ち着いてくるかもしれません。もし、ここで曖昧なことを言われたら、その診断に疑問を持ったほうがいいのかもしれません。

どのような治療が行われるのですか?


やはり自分は乳がんだという確信を持てたなら、次は今後の治療がどうなるのかを聞いてみましょう。もちろん、この時点では詳しい検査はしていないので、担当医も正確なことは言えないはずです。ただし、おおまかな治療方針というのは、この時点でもある程度は話してくれるのではないかと思います。

沢山の選択肢が提示されるかもしれません。
治療の内容も、初めて聞くことでよくわからないかもしれません。
どれも大変そうで、また恐怖がぶり返してくるかもしれません。

とはいえ、実はここでいろいろな治療方針が提示されるということは、
そして、今後その治療を進められるということは、自分の乳がんに対して

  • 治療方法が存在しているということ
  • その治療を試せる「体」と、それを支える「体力」があるということ
  • 治療費を支払える経済力があるということ

なのです。

発見された時点でとても状態が悪ければ、そもそも治療ができないでしょうし、
病気が進むことで、治療方法がなくなってしまうかもしれないでしょう。

治療に耐えられる体と、その体を支える体力がなくなったり、
経済的に困難になってしまったりすれば、治療は続けられなくなってしまうでしょう。

病気になってしまっても、これから治療が始められるというのは、
この病気に対する手だてがある状態だということ。
つまり、患者としては、ちょっとだけ幸せな状態だと思えるんじゃないかと。

(もちろん、病気にならないのが一番いいんですけどね)

そして、何よりも大切なのは
乳がんになったからといって、今すぐには死なないということです。

2013年5月13日月曜日

乳がんかな?と思ったら



たぶん、乳がんの疑いがあったり、実際に診断されて、色々と検索したらこのBlogにたどり着いた方もいるかと思います。患者の方のBlogは沢山あって、あまり良くない内容が書いてあって、それを読むたびに不安になるのではないでしょうか?

私もそうでした。

乳がんになる確率


生涯、女性が乳がんになる確率は、現在の日本の場合、約15人に1人の割合と言われています。日本よりも患者が多い欧米では、約8人に1人の割合と言われています。日本の割合は年々増えており、最終的には欧米と同じぐらいになるのではないかと言われています。

とはいえ、生涯、乳がんにならない女性の方が圧倒的に多いのです。
まず、これを大前提として知ってほしいと思います。

一方、乳がんのリスクファクターで確実なのは女性であることです。
つまり、このBlogを読んでいる方の性別が女性なら、男性よりも乳がんになるリスクは高いと言えます。

この2つのことを考えると、女性であれば誰でも乳がんになる可能性があるものの、生涯乳がんにならない女性の方が多いのが事実です。

そして実際に乳がんと診断される割合ですが、日本対がん協会によると、以下のように説明されています。


精密検査とは
 視触診併用のマンモグラフィによる乳がん検診を1000人が受けると仮定します。さらに、精密検査を受けた50人中、乳がんと診断されるのはおおよそ1~2人です。受診者全体から見ると0.1%か0.2%です。
そのうち50人が「精密検査が必要」とされます。全体の5%です。
日本対がん協会 乳がんQ&Aより

検診で精密検査になってしまったり、しこりを見つけてしまったら?

まだ、この時点では乳がんだと決定したわけではありません。
上記にも書いたとおり、検診で最終的に乳がんと診断されるのは、1000人に1〜2人です。
また、自分の乳房にしこりを発見し、「乳がんかも?」と思う方もいるでしょう。
そういった場合、まずは、医療機関で精密検査や乳腺疾患の診療をさっさと受けましょう。
精密検査や乳腺疾患の診療を受ける際ですが、以下の2つに気をつけて医療機関を選ぶのがいいと思います。

  • 精密検査を受ける医療機関の医師が「(乳腺)外科医」であること
  • 確実な診断を心がけていること

まず、乳がんの治療は基本的には外科医が担当します。その中でも「乳腺」を専門にしている医師を探して精密検査を受けるのがよいと思います。都市部なら、選択の余地は多々ありますが、地方などではなかなか探しにくいかもしれません。大変だとは思いますが、外科で診療を行っており、さらに乳腺を専門にしている医師を探し当ててください。どこで精密検査を受けるか、どこで乳腺疾患の診療を受けるかで、その後が大きく変わります。

よくある話で、乳がんの精密検査は婦人科にかかるのでは?と思う方もいると思いますが、婦人科は子宮や卵巣など、女性生殖器に関する専門です。婦人科で乳がん検診をしている場合もありますが、乳がんは基本的に専門外になるので、精密検査や気になる症状があるのであれば、なおさら乳腺外科医の元を訪れるようにしましょう。

また、確実な診断を心がけているとは、安易に経過観察にせずに、確定診断をすることを心がけている医療機関を選ぶということです。乳がんは、がん細胞によって腫瘍が作られる病気です。なので、腫瘍の画像診断と、その腫瘍の細胞または組織診断の2つが合致することで、がんの確定診断となります。画像のみで、乳がんの確定診断は下せないはずです。

乳腺外科の乳腺専門医であれば、マンモグラフィーやエコーの画像によってその95%程度は良性または悪性の判断ができると言われています。ただし、その時点で良性と判断できない場合は、必ず細胞や組織を取って検査することになります。通常はこれらの検査の結果を持って、最終的な診断となります。

ここまで検査をしてもグレーな判断をされ、経過観察となっている例をよく見かけます。さらに検査を行うこともあります。その場合はなぜ経過観察になるのか、なぜ検査が追加されるのかを納得できるまで聞いた方がいいでしょう。もちろん理由があって経過観察になったり、検査が追加されることもあるでしょう。しかし、きちんとした説明が得られずに経過観察になったり、検査が追加されるのであれば、それは患者にとって不利益ですし、不安なまま日常を過ごさなくてはならなくなるのは精神衛生上もよろしくないことです。

検査結果に対する診断が信頼できないのであれば、医療機関を変える必要があるでしょう。ただし、エックス線を使ったマンモグラフィーや針を使った検査は、短期間に何度も行うことも、患者にとっては不利益なので、やはり、最初の医療機関の選択は慎重に行うべきです。

検査結果を待つ間は不安に押しつぶされそうになるかもしれません。
私もそうでした。

仕事や家事が手につかないかもしれません。
私もそうでした。

バレない程度に手を抜くことができるなら、思い切って手を抜いてしまいましょう。
そんなことは大したことないので、あとで、きっとどうにでもなります。

細胞の検査は、その日のうちに結果が出るかもしれません。
組織を取る生検でも、長くても2週間程度で結果が出るでしょう。

そして、何より大切なのは、
この時点ではまだ乳がんと診断されたわけではないということです。

2013年4月29日月曜日

愚痴とかなんとか6:術後のあれこれ

乳がんの手術後、最近ちょっと気になり始めたのが、実際、私はどれだけの重さの脂肪と腫瘍を取り出したのかということです。私の家族は、術後の説明の際、実際に取り出した組織を見ているのですが、私は見ていません。母に話を聞いたところ、見せられた組織が思ったよりも大きかったようで、私の今の乳房の状態を見せたら、「あんなに取ったのに、ほとんど変わってないわね(絶句)」だそうなんですよ。いや、こっちもそんなに組織を取ったとは思ってなかったので、話を聞いてびっくりでしたが。

まあ、ボンボンの腕がよかったから、それほど乳房の形が変わらなかったのかもしれませんが(もしかしてこれが腕利きってことか!?)、いずれにせよ、それなりの量は取り出しているような気がします。なので、その重さ分を乳房あたりに持ってくることで、体のバランスが崩れることはなくなるのかと。次回の診察の際に聞いてみようと思っているんですが、実際、取り出した組織って重さを計ってるもんなんですかね?

あと、術後に「普通の下着を着けていいですよ」と言われたんですが、いくら変化がそれほどなくても、形がまったく変わってないわけではないし、傷もあるので、大きさが左右対称であり、傷がないことを前提に作られている、いわゆるワイヤー入りのブラジャーは今のところしていません。今後、放射線治療が始まれば、脱ぎやすく着やすいという観点の下着を着ける必要もありますし……。たぶん、下着選びというのも、ちょっとしたトピックになりやすいんじゃないかと思ってます。

大体、傷に縫い目など何か当たると痛いので、結局はカップ付きタンクトップ的なもので誤魔化しています。いろいろなメーカーから出ているので、何枚か買って試してみているのですが、今のところは無印良品のパッドを入れる部分がメッシュになっているものが私には一番良い感じです。ユニクロのはカップの淵が傷に当たってちょっと痛いんですよ……ホールド感はユニクロの方がいいんですが……。と、男性にはあまりよくわからない話で今日は終わり。「どうでもいいこと」なんで、こんなところでしょうかー。今日は本当にどうでもいい話でしたね。

それと、やっぱり術後しばらく経ったら、手術した乳房がしぼんできたような気がする……よく考えてみると、移動した脂肪って、実はそれほど定着しないんじゃないかと思うんですよ。脂肪を使った豊胸術って、大体そんなもんみたいなので、同じことなのかなと(あ、豊胸術はしたことないですよ!あくまで一般論ですよ!)。もともとの乳房はそれほど大きくないので、なるべく現状維持でお願いしたいところです。この後、放射線治療を行うと、さらにしぼむのかしら〜(ため息)。
傷も線一本とは言え、思ったよりも長いし(8センチぐらいある・涙)、やっぱりしばらく経つと、色々と愚痴が出てきますね。術前に術後はどうなるかっていう話を、もう少しきちんとしなかったことがちょっと悔やまれます。なにが不安なのかがわかっていたのに、それを解消するための行動ができなかったことも。まあ、この辺りは、「切らない治療」というのが主流になれば、多少は解消しやすくなるんでしょうね。
私は、傷が残ることや、乳房が変形したり、術後にしぼんだりすることがイヤだったんじゃないんです。そうではなくて、術後にどうなるのかという現実的なことを、可能性の話でもいいから知りたかった。でも、何度、説明を聞いても私は理解できず、最後まで話の落としどころが見つかりませんでした。何度も説明してもらってるのに理解できない私って、本当はバカなんじゃないかとまで思ったぐらいです。恐らく、やってみないとわからないところもあるのだろうけど、実際はボンボンの術後の発言にあった「どう説明していいかわからなかった」によって、意思疎通がとれてなかったことが判明したのですが、これで片付けてしまってよかったことなのかなと、やっぱり未だに思っています。
わかってる、私はしつこいけどな!

2013年4月24日水曜日

読むと役に立つかもしれない本

愚痴とかなんとかシリーズ(シリーズだったのか?)は、私が乳がんに対して漠然と考えてることを書いているんですが、今日はちょっと趣を変えて。

医療統計はじめました

いろいろと治療法に関して検索などをしていると海外の論文などをちら見することも増えますが、文系の私が一番読んでいて苦労するのは、英語ではなく、実は統計です……。

統計学が最強の学問である

西内 啓 / ダイヤモンド社


最近のベストセラー本で上記の『統計学が最強の学問である』というのがありますが、巷では統計学が流行っており(統計学が流行る背景ももちろんあるんですけど)、それに乗りつつちょっと学び始めてみました。この本にもあるのですが、そもそも統計学というのは、公衆衛生学とか疫学が生みの親です。

だったら、医療に関する統計について知った方がいいかなと思い、その入門書として手に取ったものがとてもわかりやすいものでした。これから乳がんに関する論文を読むために、統計学を学びたいなーと思った方は、ちょっと目を通してみてはいかがでしょうか? 少なくとも、他の方が書いている闘病Blogを読んで一喜一憂するよりも、きちんとした情報を得られるようになった方が気が楽になることもあるのではないかと思うのです。

宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ (岩波科学ライブラリー (114))

佐藤 俊哉 / 岩波書店


この本以外にも、統計学について10冊ほど読んでいるところです。実はこれは最近の仕事でもあり(治療費を稼ぐために! もう仕事に戻ってます・笑)、ある程度読み終わったら、まとめの記事にする予定です。記事は公の場に出すことになりそうなので、またそれはその時に。私の統計学の知識もきっと役に立つぐらいになっていることを祈って。

遺伝子医療の事実と希望から、身体の将来を予測する
また、何度かOncotype DXの話を書いていますが、実際にこのような遺伝子を使ったパーソナル医療の全体像をつかむのに、最適なのではないかと思うのが次の本です。遺伝子医療の事実と希望が非常に読みやすい形でまとまっている良書です。

遺伝子医療革命―ゲノム科学がわたしたちを変える

フランシス・S・コリンズ / 日本放送出版協会



ちょっと前に国際関係や外交政策に関するジャーナリストのトーマス・フリードマンの『フラット化する世界』という本がヒットしたことを覚えているでしょうか?IT(情報テクノロジー)の発達により、階層や地域の壁が取り払われる(ボーダレス化する)といったことを説いた内容でした。実際に医療もそのフラット化する世界の一部に取り込まれており、現在、遺伝子医療にはどんな人でもアクセスが可能になりつつあります。しかし、その一方で、フラット化された世界においては、人それぞれに情報が与えられる機会が均等になるわけではありません。がんは情報戦であるとよく言われますが、フラット化された世界では、人は主体的かつ能動的に情報を入手し、それを活用することで、初めて恩恵が受けられるのです。そして、医者との関係をフラット化するには、患者として積極的に治療に関わる必要があるのではないかと思っています。

ちなみに、この本の中にも、遺伝子発現解析により抗がん剤を利用せずに済んだ乳がん女性の話が出てきます。アメリカの話のようなので、恐らく、ここで言う遺伝子発現解析とはOncotype DXのことでしょう。その他、乳がん関連では、遺伝子検査をして(Dx)処方する(Rx)薬品として、HER2陽性乳がんのための、分子標的薬のトラスツズマブが取り上げられており、また、抗エストロゲン薬のタモキシフェンは、体内でCYP2D6によって酵素が作られない患者には薬効がないため、おそらくはこれに対するDxRxが近い将来行われるようになるだろうといった話が記されていました。最後の話は、最近よく聞きますね。

なお、この本の著者は、アメリカでヒトゲノムプロジェクトを率いていたトップサイエンティストなのですが、一般向けに書き下ろしているというのもあり、どの話も文系の私でも非常にわかりやすく、かつ知的好奇心をそそる内容です。「人は誰もがたくさん遺伝子的欠陥を抱えて生まれていることを認識しておこう。完全な人間など一人もいないのだ」という一節が特に心に残ったのですが、「完全な人間など一人もいない」、これこそが生命の本質を表しているのではないでしょうか。そして、遺伝子的欠陥はその人ごとに違うため、ある人に合う治療がある人には合わないということがあるということ。画一的な医療を受動的に受けるのではなく、まずは人体そのものに対する考え方を私たち個人個人が変えて行かなくてはならないということを強く感じました。

どうしても病気になると、その病気のことばかりについて狭い範囲で調べてしまうと思いますし、それは大切なことです。しかし、一歩下がって、自分が受けている(もしくは受けようかと思っている)治療をとりまく全貌というのを広い視野から検討することで、自分にとってよりよい選択肢を選ぶことができるようになるのかもしれません。

話はちょっと戻りますが、海外の論文を読む際は、もちろん英語も最初は単語がわからずに苦労してましたが、読んでいるうちに頻出単語は覚えてくるので、最近はExtractやAbstractぐらいであれば、それほど苦労せずに読めるものも増えてきました。その中で最近読んで知ったのが、the Ki-67 labeling indexの「Ki」と「67」の意味。治療そのものとはまったく関係ないのですが、ちょっと面白かったので。

The Ki-67 antigen was originally identified by a German group in the early 1980s, by use of a mouse mAb against a nuclear antigen from a Hodgkin's lymphoma-derived cell line. This non-histone protein was named after the researchers' location, Ki for Kiel University, Germany, with the 67 label referring to the clone number on the 96-well plate.

��訳)Ki-67抗原はもともとホジキンリンパ腫由来細胞株から核抗原に対するマウスモノクローナル抗体を使用することにより、1980年代初頭にドイツのグループによって同定された。この非ヒストンタンパク質がKiと名付けられたのは、研究者がいた場所である、ドイツのキール(Kiel)大学にちなんでおり、67ラベルは、96穴プレートのクローン番号を参照している

ということで、Kiはキール大学から、67はプレートのクローン番号だった、というオチです。KiってHER2みたいな長々とした名前(human EGFR-related 2/nue)の頭文字みたいなもんなんじゃないか?と思っていた私にとっては、へーへーへーと、どうでもいいうんちくがまた増えてしまった……。

ちなみに、96穴プレートというのは、こんなやつです。こちらも、へーへーへーって感じですな。クローン番号というのは、どうやらこのプレートを使う際には、必ず番号が振られるようなのですが(クローンを扱っているからクローン番号なんだと思います)、それが67だったということみたいです(この辺はあやふやですみません……)。

なんてどうでもいいうんちくを、どんなに調べたところで、私の乳がんが再発しないってわけじゃないのがまた腹立たしいことです(笑)。あと、本に関してですが、基本的に私個人は、闘病を扱う書籍は有名人が生還するか、もしくは一般人なら死なないと売れないというのが(ビジネスライクに)、また腹立たしいことなので、読む気もしないし、このBlog上で扱う気もしません。自分が死に直面すれば、話は変わるかもしれませんが。

2013年4月22日月曜日

「標準治療」とは4:全身療法について

乳がんの標準治療では、以下の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の発現や、がんの種類によって変わる)


今回からは現在の乳がん治療において、主軸になりつつある、全身療法に関してまとめてみる。

・乳がんのサブタイプが決まる要因
ひと口に乳がんといっても、タイプは1つではない。次の分類やグレードなどを使って、そのがんの人となり的なものをさらに細かくサブタイプ化し、そのサブタイプに合わせた治療がおこなわれる。

・組織型による分類
・免疫染色による分類
・組織学的異型度によるグレード
・その他の予後解析法
なお、上記以外にも、リンパ節への転移や腫瘍径など、手術時に摘出した腫瘍の病理診断も加味される。

・組織型による分類
組織型による分類とは、いわゆる乳がんの組織構造とがん細胞の特徴によって分類したもの。いわゆる、非浸潤、浸潤、といったところから、乳管癌、小葉癌などがあり、これは日本乳癌学会の取り扱い規約にて、以下の内容がまとめられている。なんか頑張って表を作ってみたけど、あまり最近はこの分類には意味がないかも。最初のフィルターの役割って感じで(笑)。

以下は乳がんの組織学的分類(日本乳癌学会)より


・免疫染色による分類
免疫染色による分類とは、病理組織の標本を染め分けることで可視化される、がん細胞に存在する特殊な受容体(レセプター)を発見し、その発現度合により、タイプを振り分けることである。各レセプターは外部から何かしらの刺激を得ることによってがん細胞が活性化するため、これら受容体の存在を調べることで、がん細胞がどんな「餌」によって、増殖しているのかがわかる。

特殊型乳がんの一部には適用されないが、通常の乳がんの場合は以下の2つのレセプターの発現を評価し、その発現度がサブタイプ分類に使われる。発現していれば陽性、発現していなければ陰性であり、基本的に陽性=そのレセプターに対する治療が効きやすいと思っていただきたい。
・ホルモン受容体
・HER2タンパク

ホルモン受容体(レセプター)には、女性ホルモンである”エストロゲン”もしくは”プロゲステロン”の2つがあり、この受容体があるがん細胞は、上記のホルモンの刺激によって増殖する。何度か病理診断などに関して略称で書いてきたが、「ER」=エストロゲンレセプター、「PgR」=プロゲステロンレセプターのことだ。これらががん細胞の核に存在しているのならば、そのレセプターに対して女性ホルモンという「餌を絶つ」、いわゆる兵糧攻めを行うのが「ホルモン療法」である。ちなみに、ホルモンレセプター陽性乳がんは、乳がんの中でもっとも多く約70%を占め、ホルモン療法自体は、乳がんの全身療法として古くから存在する治療法である。

HER2(human EGFR-related 2/neu)タンパクは、がん細胞の膜(細胞表面に存在する糖タンパク)に存在する受容体型キナーゼである。このHER2を過剰発現する乳がん(HER2陽性乳がん)に対しては、HER2を標的にした分子標的治療薬を用いた分子標的療法が行われる。乳がん全体の約25%を占めるといわれるHER2陽性乳がんは、がん細胞の増殖速度が非常に早く、数年前までは、もっとも予後が悪いものとされてきた。しかし、このHER2タンパクのみを狙い撃つための分子標的治療薬(トラスツズマブ、商品名:ハーセプチン)が登場したことにより、予後が大きく改善された。

トラスツズマブは日本において、2001年に転移進行性乳がん(いわゆる再発や遠隔転移)に対しての治療薬として承認されたのち、2008年にHER2過剰発現乳がんの全身療法への追加適用が承認されている。また、現在、HER2陽性乳がんに対する分子標的治療薬には、トラスツズマブ以外にもいくつか存在している。個人的に思うに、ここ数年でもっとも生存率が上がったサブタイプじゃないかと。

・組織学的異型度によるグレード
乳がんの細胞・組織学的な特徴のことを悪性度(グレード)と呼び、この数字はがんの顔つきとされている。グレードは組織学的異型度ともいわれ、乳がんの予後を推測するためのものである。評価には腺管形成の程度、核の多形性、核分裂数の3つの因子を3段階にスコア化し、次にこれらの数値を合計して、3、4、5点=グレード1となり、6、7点=グレード2となり、8、9点=グレード3と判定しているようだ。生存率はグレード3、2、1の順に不良であることが明らかとされれいる。

・その他の予後解析法
先にも書いたとおり、ホルモンレセプター陽性乳がんは、全体の70%程度を占めることから、さらなるサブタイプ分類が必要になっている。たとえば、ホルモンレセプター陽性乳がんの中にも、抗がん剤を上乗せした方が生存率の改善が改善されるサブタイプがあるとされており、そのサブタイプを見極めるために、上記以外の予後解析法が使われるようになっている。

Ki-67(the Ki-67 labeling index)
細胞の核に局在する、がん細胞が分裂しようとしている時に出てくるタンパク質のこと。このタンパク質は細胞の増殖の能力を示す物質と考えられており、悪性度の判定に用いられている。Ki-67の抗体で免疫染色を行うとがん細胞の核が染色され、その500個~1000個のがん細胞における、Ki-67抗体の標識率(陽性率)を表す(ちなみに、このカウント方法が色々あるようで、実はこのki-67は信憑性がどこまであるのかが謎)。ホルモンレセプター陽性の乳がんのみの治療指針とされているもので(なぜなら、予後はホルモンレセプター陽性の方がホルモンレセプター陰性よりも良いので、この数値自体がホルモンレセプター陰性乳がんには関係なくなる)、標識率が14%以上であると、予後が不良であることが報告されている。

多重遺伝子診断
これは最近使われるようになったものなので、詳しくは後日説明するが、予後解析法の1つとして取り入れられるようになったのが、予後予測因子を使った多重遺伝子診断だ。その方法は大きくRT-PCR法とDNAマイクロアレイ法の2つがあり、前者の代表的なものがOncotype DX、後者の代表的なものがMammaPrintである。

というわけで、全身療法は上記のさまざまな分類を用いて、治療方針を決めるようになっている。基本的には
・ホルモン療法(抗エストロゲン剤など)
・化学療法(いわゆる抗がん剤など)
・分子標的療法(ハーセプチンなど)
の単独または組み合わせになるが、どのように組み合わせるかは次回に書いてみたい。

そして、こんなニュースを読んでげっそり……。というか、最近の乳がんは、初期治療で抗がん剤を使う症例が減ってきてるように感じるので、必ずしも抗がん剤を治療費に上乗せしないでもいいと思うんだが、やっぱりフルコースでのトータルがわかりやすいか。特に、抗がん剤に感受性が低いとされるサブタイプには、基本的に抗がん剤は用いないというのが、最近の風潮っぽい。その反面、どうして日本は乳がんによる死亡がこんなに高いんだろう?というのは、不思議でもあるんだけど。まあ、現状の生存率は、10年であれば、2000年頭であり、その頃はまだハーセプチンも使われてなかったわけだから、10年後には、また違った数字になっているんだろうし、大きく改善されるといいなと思っている。
日本においては、手術の断端陽性の基準も、欧米に比べると厳格だから、局所コントロールは厳しくできてるだろうし、全身療法もかなりガイドラインに則ってるって感じがするし。なのに、生存率が改善してないのはなぜなんだろう。そのあたりは、もう少し調べていきたい。あと、ザンクトガレン2013の報告をちらっと見かけたが、2011年とあまり変わってない感じがした。サブタイプ分類の呼び名がよりわかりやすくなり、より遺伝子発現解析の結果を反映しているような感じになったのだろうか。
しかし、Oncotype DXは高いです。MammaPrintもですけど。早く保険収載されるようになればいいのに……と思います。

2013年4月21日日曜日

外科手術までの費用

手術ってすごいお金がかかるのかなと思ってたのですが、思っていたよりもかかりませんでした……。理由の1つは、先に「健康保険限度額適用認定証」を交付してもらっておいたからです。もちろん、これがなくても、後で健康保険組合から限度額を超えた分は戻ってくるのですが、最初から支払う額が少ない方が絶対にいいです。国民健康保険でももちろん適用されますので、高額医療費がかかりそうな際は、申請しておくことをおすすめします。

●某大学病院にて
入院5日:乳房部分切除(温存)術、センチネルリンパ節生検、麻酔、投薬など(包括診療)
86,710円(108,197円を高額医療費として支払い時に支給)

つまり、この認定証がなければ、20万円近くになったのですが、認定証のおかげで、なんと10万円以下で済みました。日本の医療制度は素晴らしいですね。

あと、差額ベッド代は含んでません。実は、差額ベッド代は上記医療費の半額以上の金額(約5万円)、非常にアホな出費になりました。これが3日の入院だったら……、ボンボンのバイトがなく、術後翌日に退院できていれば……と思わずにはいられません(笑)。温存術+センチネルリンパ節生検陰性でリンパ節廓清をしなかった方は、入院が2泊3日や1泊2日という方も多いようです。病院によっては、入院当日手術、同時再建でも次の日退院とかあるぐらい、乳がんの手術はさっさと病院を追い出されるのが特徴です。

病棟の看護師さんの話では、内臓系だと筋肉を切るのでかなり痛みが強いらしいのですが、乳房の場合は乳腺と脂肪だけなので、痛みはそれほどないとのこと。確かに、手術翌日から病院内を普通通りに歩けてましたから、今思うと、本当に回復は早かったですね。

手術前の切除範囲決定までの費用

乳がんの確定診断が出たあとは、某大学病院へ紹介状を持って診療を受けに行きました。すでに針生検で乳がんの確定診断が出ていたので、病理に関してはセカンドオピニオンを受けませんでした。というのは、その確定診断を出したところが、通常セカンドオピニオン先としてよく使われているところなので、こうなるとセカンドオピニオンの出し先がないなぁというのが本心で。ちなみに、乳がんになられた方はよくご存知だと思いますが、私の乳がんの病理診断をしたのは、乳腺の病理確定診断を専門にしている坂元記念クリニックです。診断書の病理医のサインも坂元先生で、ちょっとびっくりしました。ほんとかしらー?と(笑)。

●某大学病院にて
1回目:乳腺外科初診、血液検査、胸部レントゲン、肺活量測定、心電図、乳腺超音波検査
9,920円
この日に、手術までのおおまかなスケジュールが決まる。

2回目:麻酔科外来
210円

3回目:FDG-PET/CT
27,800円

4回目:乳腺MR
7,890円

5回目:乳腺外科再診
210円
検査一式を元に、術式と切除範囲の相談。T1N0M0=ステージ1の臨床診断。術式はここで決まらず、手術前にもう一度決めることに。

手術前の検査一式で、約5万円って感じですね。FDG-PET/CTじゃなくて、CTを行って遠隔転移を検査したり、骨シンチグラフィーという、骨への遠隔転移を見る検査をやったりすることも多いようですが、某大学病院では、PET一発で終わらせるって感じでした。どっちが安いのかはよくわからないですが。

私の場合は、大学病院を受診した時点で、すでに乳がんの確定診断があったので、手術までは早い方だと思います。ただ、受診時にMRが1ヶ月先まで空いてなくて、ボンボンが電話口で「それじゃあ困る!」と、怒っていたことを今更思い出した……。で、なんか裏の手みたいので、予約を入れてくれたようでした。通常の外来用の検査室じゃなかったし。

乳がんの確定診断までの費用

乳がんになると、どれぐらいお金がかかるの?というのは、結構気になるところなのかもしれないので、一応そのあたりもまとめてみるかと。まずは、確定診断までにかかったお金をまとめてみます。

●某クリニックにて
1回目:マンモグラフィー撮影、乳腺超音波検査、針生検による病理診断標本作製など
9,650円+450円(投薬)=10,100円


2回目:血液検査、胸部レントゲン、乳がん確定診断後の免疫染色病理標本作成(HER2、ER、PgR)、腹部超音波検査(病理診断が小葉癌だったので、先生的に腹部への転移を先に確認したかったみたい。転移はもちろんなしでよかったんですが)など
9,950円

3回目:紹介状(診療情報提供書)作成など
1,260円

2万円ちょっとでがんの確定診断が出ました。

2013年4月19日金曜日

「標準治療」とは3:放射線治療

乳がんの標準治療では、以下の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の発現や、がんの種類によって変わる)


実はちょっと間が空いてしまったのだが、放射線治療に関してまとめてみる。


乳がんに対する放射線治療の種類

乳がんに対する放射線治療には、乳房温存術後や乳房切除後に局所再発を防ぐために行うものと、再発・遠隔転移の部位(局所、骨、脳など)に対するものに大別すると2種類に分類される。

現在もっとも多く行われているのは、乳房温存術後の局所再発を防ぐための、放射線治療だろう。

この、乳房温存術後は、乳房へ放射線を照射するが、その治療は、通常リニアックという治療機械で行われる。リニアックとは、こんな感じの機械で、放射線が放出される部分は大きく左右に動く(ちなみに、私が通っている某大学病院はこの会社の機械が入っている)。

リニアックは、放射線治療用のX線や電子線を発生させる最も一般的な装置で、頭から四肢まで、全身のあらゆる領域の病変の治療が可能な汎用機である。ビームの出口にマルチリーフ・コリメーターと呼ばれる5mm厚の金属板が並んでおり(こんな感じ、Youtubeの動画)、この金属板を移動させることにより、好きな形状にX線照射野を作ることができる。

乳房温存術後に行われる放射線治療の目的と効果
乳房部分切除といった、乳房を残して腫瘍を切除する場合、将来的に同じ乳房に対する局所再発が20~30%程度に生じると言われている。部分切除後に放射線治療を行うことにより、局所再発を2~3%程度に抑えることができ、乳房をすべて切除した場合とほぼ同じ効果を得ることができるとされている。ただし、放射線はあてたところ以外には効果はないので、遠隔転移を抑制することはできず、あくまでも局所再発を抑制するためにこの治療は行われている。

照射の際は、両腕または片腕をあげた姿勢で、手術をした側の乳房全体に放射線を照射し、原則的に、月曜日から金曜日までの週5回、合計20~25回照射することが多いようだ。乳房全体を照射する場合はX線という放射線で、1回2Gy(放射線の単位で、グレイ)、合計40~50Gyを照射する。また、腫瘍のあった範囲のみに照射部位を小さくし、電子線という放射線を使い、2~3Gyをさらに3~5回ほど追加することが多い(ブースト照射)。乳房全体の照射とブーストを合わせた照射量は50~60Gyとなることが多いが、腫瘍個々のケースによって異なるので、詳しくは担当医などに聞いてみるのが良いだろう。

放射線治療にかかる時間は、治療室に入ってから出るまで、10~15分程度と短く、実際に放射線が出ている時間は1~2分程度で、痛みや熱さなどはまったくない。

放射線治療の影響
放射線治療の副作用としては、いくつかあるが、それほど深刻なものが起こることは非常に少ない。乳房に放射線を照射しても髪は抜けず、吐き気などもない。人に寄っては、少し疲れやすくなったり、白血球が減少したりすることもあるが、まったく起こらない人もいる。ただし、皮膚には、以下のような急性反応として影響が出るのが普通だ。

急性反応(皮膚の炎症)
治療中2週間ぐらいすると、乳房の放射線を照射している部分だけが、日焼けのような状態になり、赤くただれたり、水膨れができたり、かゆみや痛みなどを感じたりすることがある。その程度には個人差があるが、日焼けに弱い人ほど強く出ると言われている。かゆみや痛みが強かったり、水膨れやただれてしまった場合は、放射線科の医師から軟膏を処方してもらえる。

晩期障害
ごくまれに、「晩期障害」といって、治療後数ヶ月から数年たって、次のような症状が出る人もいる。

・放射線肺炎:100人に1人ぐらいの頻度で起こる
・上肢の浮腫や乳房の変化:100人に5人ぐらいの頻度で、上肢がむくんだり、縮んだりする
・照射部位内の肋骨骨折や放射線心膜炎:100人に1人いるかいないかの頻度で起こる
・2次発がんの増加:抗がん剤と同程度とされている

放射線治療が終了した後も、上記の晩期障害を防いだり、診断したりするために、放射線科の医師の診察が行われる。

2013年4月17日水曜日

愚痴とかなんとか5:乳がんの特徴

「標準治療」とは?、の続きを書いてないので、乳がんになった方や詳しい方以外は、前回のエントリーの最後にまとめて書いた病理診断の結果の意味がまったく意味不明だと思うが、その中でもちょっと書いたOncotype DXをなぜ受けたのかと、すでに一部がスタートしているホルモン療法に関連して悩んでいることなどを、次回の診察までに自分の中できちんとまとめておきたいと考えている。

その理由は、"More"以降に書いておくが、Oncotype DXの結果によって、ボンボンの元から離れることを決めたから。希望としては離れたいのだが、まだ結論が出てないので、なんとも言えないものの、別にボンボンが嫌いになったわけでもない。むしろ、普段自分の回りにはいないタイプの人なので、面白くて好きなんですけど(笑)。

今日は、乳がんという「がん」の特徴に関して、ちょっと書いてみたい。
このがんの特徴がわかると、私がなぜ今悩むのかが、少しは伝わるのではないかと思う。

多くの人が、今見えている「がんの腫瘍」を取り除けばそれで悪いところはなくなったと理解されるのではないかと思うが、実はそうではない。
他のがんに関しての知識が私にはあまりないので、乳がん以外にはわからないのだが、基本的に乳がんは乳房だけの話ではなく、「全身病」として捉えるのが最近の考え方である。

以前、乳がんの手術というのは、初期であればがんが乳房とその付近にとどまっているという考え方のもと、乳房だけでなく胸筋までを切除する術式が選択されてきたが、この術式にて手術を行っても、再発や転移などが大きく減少したわけではなかった。比較的初期の段階と見えても、すでにがん細胞はリンパ管や血管などに入り込んでいる、つまり、転移が始まっている可能性があるというわけである。そのために、現在の乳がんにおける外科的手術は、できるだけがんを(取り残しなく)小さく切り取るという方向にある。がんは小さく取って、すでに体内に始まっているかもしれない転移を食い止めるという、全身療法に主軸が置かれるようになっている。

ただし、転移しない乳がんというのもある。乳がんの中でも「非浸潤」と呼ばれるものは、乳管や小葉の細胞膜内にとどまっている状態のため、理論上転移することはなく、がんさえ取りきれれば「治る乳がん」と言われている。しかし、非浸潤の状態で見つかるのは現在乳がん全体の数%〜十数%程度とされており(正確なデータがないのでよくわからん……)、ほとんどの乳がんは、「浸潤性」と呼ばれる、がん細胞が乳管や小葉を包む膜を突き破って広がり、周辺組織に広がっている(この状態を浸潤と呼ぶ)状態で発見される。この状態になるとしこりを形成しやすくなるため、自己発見されることもある。そして、その浸潤域がどんなに小さくても、がん細胞は血管やリンパ管内へ入り込める状態であることから、すでに目には見えない全身への微小転移は始まっている可能性があると考えられている。

現在、すべての浸潤性乳がんは、非浸潤を経て浸潤性に移行すると考えられている。乳がん検診が行われる理由は、乳がんを1つでも多く非浸潤の状態で発見することでもある。つまり、乳がん検診で発見されるもっともラッキーな例とは、マンモグラフィーやエコーのみで発見できる、小さな非浸潤の乳がんで、しこりはまったく触れないことも多い。そして、この状態の乳がんは病期(ステージ)0となる。

もちろん、浸潤性乳がんのすべてが再発・遠隔転移を起こすわけではない。早期乳がんとよばれる、病期(ステージ)1の乳がんであれば、浸潤しているとはいえ腫瘍の大きさは2cm以下であり、それほど大きな範囲ではなく、リンパ節への転移もない。つまり、まだ転移が本格的に始まっていない可能性が大きく、それが生存率にも見て取れる。だが、腫瘍の大きさが小さいから必ずしも転移が始まっていないとは言えないし、腫瘍の大きさが大きいから必ずしも転移が始まっているとも言えない、そして、どちらなのかは誰にもわからない、というのがこの乳がんというがん最大の特徴なのだ。

だから、患者は悩む。どの全身治療をすれば、私の乳がんは”絶対”に再発したり、転移したりしないの?と。しかし、現状でできる限りの全身治療を行っても行わなくても、結果として再発しない人も転移しない人もいるし、再発する人も転移する人もいる。そして、それが現実だ。どんな治療を上乗せしても、生存率が100%にならないという現実に、正直なところげんなりする。もちろん、治療を上乗せすることで、ある程度の生存率は上がるけど(ただし、治療が効く効かないの見極めも大切なものの)、そもそも健康な人の生存率がつねに100%であるとすれば(ってわけでもないけど)、どうやってもそこには届かない生存率を抱えたまま生きるということは、ストレス以外になにものでもない。

これから私が受ける全身療法とは、すでに始まっているかもしれない、再発や微小転移を食い止めるための治療とも言える。そして、どのような治療を行うかは、TNM分類による病期はもちろんだが、術後の病理診断の結果により、サブタイプと呼ばれる型が決まり、治療方針が導き出される。ここまでの全身療法までを含めて、乳がんの初期治療となる。乳がんの初期治療を行えるのは、当たり前だが一生にたったの一度だけで、二度目はない。悔いのない治療をすべて受けきるために、私は真剣に悩んでいる。だから、どんな治療を受けるかを最終的に決めるために、標準治療ではない、遺伝子検査のOncotype DXを最終的に受けることにした。

次は、「標準治療」とは?の続きとして、乳がんのサブタイプとOncotype DXについて続けて書いてみたいと思う。放射線治療の話も。

次の診察が終わり、放射線治療を受けたあとは、診断を受けたクリニックに戻って治療を進め、1年に1回の検診だけを大学病院で行う予定なので、それまでに不明に思っていることは、すべて解消しておきたい。わからなかったり、納得がいかなかったら、これこそセカンドオピニオン!ですな。1度ぐらいは、セカンドオピニオンを聞きに行ってみたいんですが、今までの治療に関しては、特に疑問に思ったり、本当にこれでいいの?っていうこともなかったので、そのまま今の治療を続けてるって感じなのです。

あ、クリニックに戻るのは転院ではなくて、ボンボンが嫌いになったわけでもなくて(笑)、前回の診察の際に、あまりにも患者と時間に追われて疲れてるボンボンを見たのと、ボンボンからも●●先生のところに通った方が時間に融通が効くし、うち(大学病院)よりも検診用の設備がいいからと勧められたからだ。これは本当の話で、エコー機材とか、絶対にクリニックの方がいいし、先生の腕もいい。実際、ボンボンとこのクリニックの先生の間には、きちんとしたパイプがあるのも知っている。例えば、ボンボンから、クリニックの先生にマンモトーム生検(吸引ができる針を使った生検のこと。マンモグラフィーなどでしか確認できない、小さな病巣の生検をするのに適している)依頼していることも知ってるので、「それがいいですね」と了解し、医療連携手帳を使うことに。

ただ、私にとって立地に関しては、クリニックよりも大学病院の方が通いやすいんだよね。会社からも、自宅からも。でも、ボンボンの外来は基本的に週2回しかなくて、日によっては激混みなので、時間に融通が効くクリニックの方が私にとっては都合がよいし、ボンボンにはたくさん臨床や手術、化学療法を重ねて、もっと患者から信頼される医師になって、ぜひ出世していただきたいのであります(たぶん無理だけど)。次にボンボンの治療を受けることになるなら、それは、私の乳がんが再発した時や転移した時になるはずなので、できればこの先、治療という形では顔を合わせないですみますように。

ちなみに、診断してくれたクリニックの先生は私をボンボンの元に送り出す際に、恐らく術後はホルモン療法になるだろうから、そうなったら戻っておいでと言ってくださっていた。あと、たぶん、クリニックの先生は私みたいな人と話すのが好きっぽいので(仕事柄、大体わかる)。すでに診断の時から、他の病院の話など、かなりブラックなことを聞いていたので、きっと乳がんに関する面白い話をいろいろ聞けそうだ。もちろん、なぜボンボン(事前の話だと、この大学病院でナンバー2の腕利きって聞いてたんだが、本当なのか未だ不明)を勧めたのかも聞きたいし、それはそれで、ちょっと楽しみ。

実は、Oncotype DXを私に初めに勧めたのは、このクリニックの先生なのだ。診断時に、もしも術後の病理結果が対象になるなら(恐らくなるだろうから)、値は張るけども年齢のこともあるし、受けた方がいいと言われていた。私は、乳がんにはなったものの、自分が信頼をしている先生達の間を行ったり来たりできる、恵まれた患者なのかもしれないですね。

2013年4月15日月曜日

病理診断:Oncotype DXを追加

だらだらとした日常を過ごし、今日は術後初めての外来。

実は月曜日にボンボンの外来を受けるのは初めてだったんだけど、どうも月曜は非常に混んでいるようだ。予約時間の10分前に来たら、まだ2時間前の予約の人の診察をしていた。

本当に乳腺外科って混んでるんだなぁと、実感。しかも今日の外来担当はボンボンだけなので、ここにいる人達が全員、ボンボンが受け持っている患者だというのが信じられないけど。みんな、ボンボンが主治医でよく不安にならないよな〜(という私もだが・笑)。

私が診療を受けている大学病院の乳腺外科は、基本的には、他の医療機関からこの大学病院の先生個人を指名した紹介状がないと受診できないので、何かしらの診断がないと、たぶん診察は受けられないはず。だから、ほとんどが、どこかの医療機関で乳がん(もしくは乳腺疾患)という診断を受けていないと、ここまでたどり着くことは少ないのだろう。まれに飛び込みでボンボンに当たっちゃった人っていうのもいるのかもしれないけど。

すごく待つのかな?と思ったが、人によっては5分ぐらいで終わっているようで、私の番は予定より1時間ちょっと過ぎてからまわってきた。診察室に入って挨拶をし、椅子に座ると聞かれる。
「普通に生活してますか?」
「はぁ?(え、なに、この超意味不明な質問)えっと、普通に生活してます……」

しょっぱなから、ものすごいアバウトすぎる質問が来たー!!
もうちょっと、範囲狭めないと、これ、患者さんは困っちゃうよ、どう答えていいか。
せめて「生活に支障はないですか?」とかね。
しかし、よく見ると、ボンボンは超疲れてますね……。あ、今まで気がついてなかったけど、白髪も沢山ありますね……。大変なんですね、たぶん。

傷を確認しましょうと、よっこいしょと乳を出すと、ガーゼをはがしてくれる。
お、本当に傷は1本しかない。傷跡はどうしても残るだろうけど、縫ってはないようなので、それほど目立たなくなりそうだ。気にしていた乳房の形も、変形というほどは変わってない。ただ、よくよく見ると、乳房内に脇から脂肪を移動しているので、左側に多少の凸凹ができていた。とはいっても、「あちゃー!」ではなくて、「ま、こんなもんでしょ」と「あら、思ったより大したことなかったわネ」の間ぐらいで、それほど悪くない。

「それほど変化がなくて、よかったですね」
「はい、思ったよりも変わらなくてよかったです。しかし、失礼ですが、私、正直言って、最後まで先生の説明を何度聞いても、自分の乳房が手術後にどうなるのかが、まったくわからなかったんですが」
と、ダメ出しをしてみた。

「私も何と説明していいかわからなかったんです。見せられる写真とかがあればよかったんですが」
と、なんとも正直すぎる(笑)告白。終わったことに対して文句を言うつもりは全然ないんですが、それを言うなら、私の乳を写真撮っとけや!と思ったが、手術後だけあっても手術前の写真がないので、何がどうなったかわかりにくいだろうなぁ……。しかし、ボンボンはこれを読んでいるのだろうか……。不安だったら、医師から写真見せてもらえって書いてあるよ!

Q27.手術後の乳房がどのようになるかイメージできないので不安です。どのような準備をするのがよいでしょうか。
A 担当医に具体的な手術跡の状態を、絵や写真でみせてもらいイメージをもつことが重要です。また、手術跡の位置や許容できる乳房の変形の程度について希望を担当医に伝えるとよいでしょう。

患者さんのための乳がん診療ガイドラインより


それ以外にも、またもやウッカリ発言があったのだが、もうどうでもいいので割愛。

その後は病理診断の話。このタイトルにもあるとおり、1つ検査(Oncotype DXという、遺伝子検査)を追加したので、その結果が出てから病理診断はもう少し詳しく書いていきたいと思います。基本的に、病理診断の結果も、pT1N0M0で、病期(ステージ)1であることは、臨床時と変わってません。腫瘍径は最大1.0cm、断端は陰性、センチネルリンパ節生検は0/3、ER++、PgR++、HER2は0(陰性)、Grade1、Ki-67は5%と、典型的なサブタイプ、Luminal Aですね。つまりは、ホルモン療法で5年間、化学療法(抗がん剤)を用いないという治療方針になることが多いのですが、Oncotype DXの結果が出てから最終的に決めることに。

2013年4月9日火曜日

愚痴とかなんとか4:このごろの私

すでに手術は終わり、あっさり退院して、なにもすることがなく、毎日ぼんやりとしている。
そろそろ次の治療の用意をしないとならないのだが、実はあまりやる気がしない。

本当のことを言うと、もう病気のことを考えたくないのだ。

最初のステップである外科的手術は、現在の病期においては、とても良い形でひとまずは終わった。まだ病理診断は出てないけど、センチネルリンパ節生検の術中迅速診断は陰性(転移を認めず)だったので、リンパ節郭清(リンパ節を取ること)はせずに済み、腕も自由に動くし、術後翌日に退院の許可が出るぐらい、順調だった。だから、あえて。

本当のことを言うと、もう私の病気は直ったと思いたいのだ。
本当のことを言うと、もう健康な体が戻ったと思いたいのだ。
でも、それはこの先、私の人生においては、二度とないのだ。

がんは、私がなった乳がんも含めて、とても理不尽で不条理な病気だと思う。

・外科的治療の対象になると、標準治療では乳房にメスを入れること
・全身療法で使う薬には、とても大きな副作用があること
・どんなに辛い治療を行っても、再発する可能性があること
・再発するまでの期間が他のがんにくらべて長く、晩期再発も多いこと
・再発/転移すると、完全な治癒は望めないこと

もちろん、今後の医療の進歩で、この理不尽で不条理なことは解消されていくのだろうけど、いったいどうして、こんなことを、今、無条件で受け入れなければならないのか、私は、理解ができない。
受け入れる受け入れないというよりも、受け入れられるわけがないことなのだから。

私は、何も納得していない。何かを納得したから、今の治療を進めているわけじゃない。
理不尽で不条理な治療に対する折り合いなんて、一生つかないだろう。

けれども、この先、この病気とどう付き合っていくのか、その方法は自分で判断をして、選択していかなくてはならない。理解しているのか、受け入れているのか、納得してるのか、折り合いがついているのか、そんなことはおかまいなしに、決断だけを迫られるのだ。

手術の話などは、少し戻って書いてます。あと、標準治療における全身療法の話。今、私は全身療法のための準備をしないとならないんだけど、薬の名前とかが覚えられなくて困ってます……薬の名前ってなんであんなによくわからんカタカナなのかしらねー。この辺りは、病理診断が出ないとわからないところでもあるんですが、いわゆる治療の本番、という感じになります。

2013年4月4日木曜日

入院と手術5(手術翌日と退院)

長かった夜が終わり、やっと朝が来た。

起床の6時より少し前に看護師さんがやってきて、心電図と血中酸素量を計るための機材と、点滴と尿道カテーテル、足に付けていたマッサージ機を外してくれる。やっと自由に体が動かせるようになった。一番最初にトイレに行く時だけ、看護師さんがきちんと歩けるかを確認するので、ナースコールをするように言われる。

尿道カテーテルを入れていると、尿意というのがどんなものかがよくわからなくなるようで、しばらくはトイレに行きたいという気にはなれなかった。が、寝ていることのほうが辛いので、とりあえず、トイレに行ってみようとナースコールを押して、看護師さんに来てもらう。起きて廊下を歩くと、特に問題はなさそうな感じだったので、トイレの入り口にてもう大丈夫そうです、とひとりでトイレに。だが、尿意を感じなかったので戻って来た。しばらくすると、やっと本当に尿意を感じ、もう一度歩いてトイレへ。が、かなりやばい感じになり、シャカシャカと早歩きで駆け込む。あら、私、大丈夫そうね、と思いながら用を足し、ついでに個室で乳を観察してみる。胸には胸帯と呼ばれる圧迫帯がきつく巻かれているので、どうなっているか、よくわからない。しかも左側をよく見ると、タオルで作ったお団子のようなものが付いていて、なるほど、ゴロゴロと寝返りしてもクッションがあったから痛くなかったのか、と納得。洗面台で顔を洗って、うがいをして、ちょっとさっぱりとした感じで戻ろうとすると、病室の入り口にボンボンを含めた乳腺外科の先生の集団が見えた。

あ、もしや、あれは私を待ってる?と思って、小走りで戻ると、そのうちの1人の先生に「あれ、もう歩けてる!」と、まるで「クララが歩いた!」ばりで迎えていただき、ボンボンがベッドに寝るように言う。胸帯を外して、傷のあたりを触っているようだ。「これなら大丈夫ですね。今日から、いつでも好きな時に帰っていいですよ」と、あっさり退院の許可が出た。

「ええ!もう帰っていいんですか?」と聞くと、退院後の外来の予約表をあとで渡すので、それを受け取ったら、いつでも帰っていいと言う。こんなにあっさり退院って決まるんだ。昨日の時点では、明後日ぐらいに退院できますよと言っていたはずだが、前倒しになってしまった。ただ、家族の都合もあるだろうから、まだ2〜3日いてもいいですよ、と。いや、帰っていいなら、帰りたかった。なぜなら、この病棟は古くて暗くて、私のベッドの側には窓もなくて、いつ日が昇って落ちてるのかがわからないので、ここにいることで、逆に病気になりそうだったから。

朝ご飯を食べて、母に退院していいって言われたと電話をすると、今日突然迎えに行くのは無理!と言われる。もちろん、それでいいんだけど。その後、父と母が明日の午前中に迎えに来てくれることになった。その間も、何度かチームの先生や看護師さんが、いつ退院するのか聞きにくる。そんなに早く出て行ってほしいのだろうかと思いつつ、私自身もいるだけでお金がかかるこの部屋に長居をするのはまっぴらだったのだ。

朝ごはんを食べると、またウトウトと寝てしまい、お昼ご飯を食べると、看護師さんが体を拭きましょうか?とお湯を持って来てくれた。私の場合は、手術後も腕の稼働域がそれほど狭まっていなかったので、どうしても動かすと痛くて届かない背中以外は自分で拭いた。その時に、初めて自分の乳をマジマジと見る。あれ、あまり変わってないみたいな。上から見ているので、よくわからなかったから、トイレに行ったとき、誰も来ないのを確認して、寝間着の前を開けて鏡で見てみる。やっぱりあまり変わってないような気がする……。手術前の写真はあえて撮ってないので、まったく変わってないわけではないのだろうけど、それほど変じゃない。左上には傷があって、ガーゼがあたってるからどうなってるかわからないけど、パッと見た感じは、それほどおかしなことにはなってないようだった。傷がどうなってるかが不安だけど、とりあえずは悪くないことにしておこう。

夕方、またボンボンが回診にやってきた。
「お元気そうですね〜?」「はい、元気です。明日帰ります」「お風呂もシャワーも、今日から入っていいですし、普通の下着も付けていいですよ」「傷のガーゼはそのままでいいんですか?」「そのままにしておくのが一番いいです。お風呂にもそのままバシャンと入って大丈夫です」「(出た!「バシャン」だって!)はぁ、バシャンとですか。わかりました。ありがとうございます」

結局その日も、あまりよく眠れない。相変わらず『深夜食堂』を読みながら夜を明かす。

次の日の朝、またもや教授回診があった。今日は取り巻きの中にボンボンもいて、私の手術の説明を教授にしていたが、やっぱりオドオドしていて、聞いているこっちがハラハラする。この人はたぶん、出世は無理なんじゃないか?と私には見えるんですけど(笑)。

そんなわけで、晴れて退院!
5日で娑婆に出られたのは、嬉しかった!

2013年4月3日水曜日

入院と手術4(手術当日)

気がついたら朝だった。病院は6時が起床時間で、放送が入る。

検温と血圧測定がいつものようにあり、その後もなんとなくベッドの上でゴロゴロとしていると、そろそろ手術の時間が近づいて来た。朝一番早い時間からの予定らしく、8時20分には手術室に入るという説明を昨日聞いていた。同意書を書いた際の説明では、順調に行けば、10時30分ごろに手術は終わるという。家族(父と母)は、それぞれに家族に関する用事があり、手術が始まる時間には病院に来られず、それぞれ手術中か終わったころ到着する予定。兄夫婦も来るとは言ってくれていたが、住んでいる家は病院からかなり離れているので、どうやら手術中になりそうだった。普通、家族が手術する場合、誰かが最初から最後までいるものなのだろうけど、乳がんの手術では何かあるということはなさそうなので、終わってから来てもらえればいいやと思っていた。

本当なら、ここでは配偶者などのパートナーなんかが来てくれるもんなんだろうけど、私にはそんな人はいないので、文字通り孤独である。シングル・がん・孤独と、シャレにもならない背景だが、それは手術の時だけでなく、この先もずっと個人的に背負っていかないとならないことなので、どうしようもない。私こそが、今流行の「お一人さま」なのである。

のろのろと体を起こすと、なんと昨日お見舞いに来てくれた友達が現れる。びっくりした。昨日、帰り際に「明日も来るよ」と言ってくれたけど、丁重に断ったつもりだったのに。話しながら用意を始めると、兄夫婦も現れる。たぶん、ここにこの時間に来るためには、朝かなり早く起きないと間に合わなかったはずだ。突然3人の訪問を受けて、嬉しいのはもちろんだったが、緊張も少しほぐれる。雑談をして、そろそろ時間だということで、3人に朝ご飯を食べに行くように促し、看護師さんと手術室に向かう。

手術室への扉を入り、準備室のようなところで手術用のうわっぱりみたいなものに着替え、なんだかよくわからないけど沢山人がいる前で名前や手術部位の確認をし、実際の手術室へと向かう。手術室は確認できただけで10以上あり、そのうちの1つへ。部屋はかなり広く、中央に手術台がある。すでに何人かいるが、誰も知らない人だ。手術台に乗って寝るように指示され、靴を脱いでよっこいしょと横になると、心電図などの機材が体に付けられて行く。寝た状態で正面を見ると、でかいモニターが天井から下がっていて、そこにどうやら心電図などのデータが表示されるようになってるみたいだった。ほう、ハイテクだ。

これから点滴をしますと麻酔医が針を右手の甲に入れようとしたが、右腕は全体的に血管が出にくくてなかなか入らない。しかも、入らない(失敗している)時は、なんとか入れようと押し込むからか、かなり痛い。3回ほど失敗して、最後の一撃があまりにも痛すぎたのと、手術前の緊張からか、涙がぶわっと溢れる。それを見た偉そうな先生みたいな人が代わってくれると、一発で針が入る。こういうふうに入れば、たいして痛くないのにと、上を見ると、いつのまにか現れていた手術着のボンボンが私の顔を覗き込んでいた。酸素マスクを付けると、点滴から麻酔薬が入って来たようだ。麻酔医が私に「麻酔薬入りましたよ」と話しかけてきたが、すでに呂律がよくまわらない。「そうですね。もう寝てしまいそうです」とふごふご答えると、「じゃあ、一緒に20まで数えましょうか」と言われたが、「いち……」までしか覚えていない。

気がついたら、回復室にいた。
看護師さんとの会話は覚えているのだが、記憶がとぎれとぎれで、覚醒したり、寝たりを繰り返していた。体が動いたかどうかはほとんど覚えていない。この時点で痛みというのはあまりなく、寝て、覚めてを繰り返していたことを覚えている。だというのに、人間というのは不思議なもので、しっかりとした会話をしようとするようだ。私も例にもれず、「手術は何時に終わったのですか?」「リンパ節は取ったのでしょうか?」と、ぼやけた意識の中で、真面目な口調で質問をしていたことを覚えている。なんども寝たり覚めたりをくりかえしていると、病室に戻ることになった。

手術は予定どおり、10時30分ごろ終わったと言われていたが、病室にもどったのは、12時を回っていた。傷口がかなり痛んできたので、看護師さんに痛み止めの点滴を入れてもらっていると、両親と兄夫婦、友人が病室にやってきた。ここでもまだ寝たり覚めたりを繰り返しているのに、やはりまともな会話をしようとする。しかし、どうみてもまだ覚めきってないだろうし、私がとりあえず元気そうなことを確認すると、皆でお昼ご飯を食べに行き、その後病院を後にしたようだ。

午後になると、意識もはっきりしてきた。腕は動くのかなと、もそもそやってみると、右も左も動く。左はさすがに手術をしているので、大きく動かすのが怖いのだが、きちんとどちらの手も顔の位置まで上がることを確認して、枕元に時計代わりに置いて帰ってもらったiPhoneを使い始める。おお、意外と大丈夫そうだ。右手は点滴の針が入っているので、気をつけながら、TwitterやLINEの返信などを書いてみる。ただ、まだ麻酔が覚めきってないようで、視野が狭い感じ。足には、エコノミー症候群を防止するためのマッサージ機が付いていて、プシューっとうるさい。さらには、尿道にカテーテルが入ってるので、まったく尿意を感じない(これは本当にびっくりした)。あとは、酸素マスクのようなものが口に付いているが、息苦しさみたいなものはない。そして、腰がとにかく痛くなってきた。

数時間に1回、看護師さんが点滴を交換に来る。その際に腰が痛いと言うと、寝返りを大きくするように指示されるが、さすがに左側に転がるのが怖い……。が、同じ姿勢でいると、とにかく腰が痛くて痛くてたまらない。右にはすぐに転がり始めたのだが、やはり一方向だけだとすぐに腰が痛くなるので、意を決して左に転がってみると、あれ?!思ったより痛くない。ええーっと思ったが、同じ姿勢でいることの方が腰に来るので、ゴロゴロとベッドの上で転がり続けていた。

夕方になると、回診でボンボンがやってきた。ボンボンは私が「パッチリ」目覚めているのを確認して、酸素マスクを外してくれる。そして、看護師さんと同じく思いっきり寝返りを「ゴロン」とすることを指示し、水を「ゴクゴク」飲むと吐いてしまうので、喉が渇いたら氷を「カリカリ」食べるように告げて去って行った。このあたりから気がついたのだが、ボンボンは擬音語や擬態語がとても好きなようで、何かを説明するごとに、擬音語や擬態語を多用する。たぶん、患者さんに対して分かりやすさと親しみを出すために、自然にそういう語彙を使ってしまうのだろうが、これに気がついてからは、会話中にわき上がる笑いを我慢するのが大変だった。今、思い出しただけで、お酒を「ガバガバ」飲む、タバコを「スパスパ」吸う、お風呂に「バシャン」と入る、などなど。日本語らしい表現なので、とてもよいのではないかと思います(棒読み)。

そして夜。昼間に寝たり起きたりを繰り返したことで、まったく眠くならない。しょうがないので消灯後にこっそりと、手元のiPhoneでマンガを読み始める。入院する前に購入しておいたマンガ『深夜食堂』だ。すると、今度はお腹が空いてくる。点滴を昼間から5本以上していて、不思議なことに喉は乾かない。しかし、このマンガに出てくる食べ物は、とても日常的な普通の食べ物(赤いタコさんウィンナーだとか、目玉焼きが乗った焼きそばだとか)で、見ているだけでお腹が空く。これがフランス料理など、ちょっとでも現実から離れていれば、それほど食欲に直結しなかったのかもしれないが、庶民的な食べ物が出てくるマンガはまずかった(笑)。

事件は夜中に起こる。空腹を我慢しながら深夜食堂を読み、大きく寝返りをしたそのとき。
手元からiPhoneが離れ、隣の方のベッド下に放物線を描いて落ち、転がって行った。
なんてことだ。これこそ、マンガみたいな風景。

さすがに、ナースコールはできずに眠れないまま、やることもなく、寝返りを数時間(恐らく。時計がないのでわからず)繰り返していると、明け方にやっと少し眠れた。

2013年4月2日火曜日

入院と手術3(手術前日)

入院当日は、手術の術式を決めて、同意書を書いて終わり。恐らく、乳がんの手術は元気ならば手術の前日入院でもいいはずなんだが、ボンボンは手術前日の曜日は毎週他の病院でアルバイトをしているという私の人肉搜索(中国語のネットスラングなんですが、いわゆるネットなどで個人情報をあさるという意味)により、この大学病院にいないことが判明してるので、手術の2日前の入院とさせて、同意書を書かせたのであろう(でも、口が裂けてもそんなことは言えないが)。

そのために1日分多く差額ベッド代がかかっているということを、ボンボンはぜひ知っておくべきである。その金額は、恐らくこの先の放射線治療が2回受けられる金額相当であることを。なお、ボンボンが1回アルバイトをすることで、懐に入ってる金額は毎回8〜10万円相当であろう。週1回の外来バイトを担当することで、1ヶ月のバイト代総額は普通の人の月給以上であり、これだけ稼げるのが医者という職業のなせるワザである。

入院したその日は、同意書記入後は本当に何もやることがなくなってしまい、担当の看護師さんに「明日の夕方の麻酔医と手術室看護師の回診に間に合えば、外泊しても構いませんよ」と言われてしまった。が、高い差額ベッド代を払っているのに、泊まらないなんてもったいない!という母の言葉につられ、泊まることにした。消灯は9時。眠れるかなーと思ってたけど、意外にぐっすりと眠ってしまい、起きたら翌日の朝5時であった。なんて健康的な!

「●●教授の回診が始まりますので、病室でお待ちください」

朝食を食べていると、放送が入った。そう、大学病院ならではの、教授回診である。
教授とその取り巻きが隣の方と話している間に、取り巻きの1人が私の所にきて「●●先生の診察があるので、お胸を出していただけますか〜?」と。おお、そうだったのかとお胸(むしろ乳)を出してるところに、●●教授、登場!教授+乳腺外科の先生数人(ボンボンはバイトなのでいないw)+研修医的な数人でぐるりとベッドを囲んで、上から覗き込まれる(うわ、沢山の視線が上から集まるってすごい光景だ……)。そこでぺろんと乳を出してる私。あまりにも自分の姿が滑稽で、笑いそうになりつつも、こらえる。

教授「おはようございます!(と私に挨拶)所見は?(と研修医に)」
研修医「ほにゃらら(たぶん左乳がん的なことを言ったみたい)で明日オペです」
教授「どの領域?」
研修医「えっと……」
教授「だめだよすぐ答えられないと、キミの担当でしょう?」
��お、ダメだしされてる。がんばれ!若者!ちなみに左C領域です)
教授「じゃあ、ちょっと触らせてくださいね。あれ?触れないね」
先生「私も昨日、初めてエコー見たんですけど、あれ?わからないですね」
研修医「……わかりません」
教授「触れなくても、きちんと画像で出てるので、安心してね!」

安心っていうか、3人触って誰もわからないって、なんじゃそりゃ!という感じですが、私の乳がんは腫瘤が1cm程度すでに形成されていると画像では判断できるにも関わらず、触っても本当にわかりにくいものだった。最後まで、自分で探してみても、どこにあるかがわからないままだった。診断をしてくれたクリニックは一切触診をしない方針だったので(それはそれで正しいのだが)、触ってわかった人というのはボンボンただ1人だけ……私の乳がんを触れたのがよりによってボンボンだけなのかと思うと、ちょっと悲しいものがあったり。

朝ご飯を食べたらすぐに眠くなってしまい、ウトウトしてると昼ご飯、そして食べたあとはあまりにも暇だったので、速攻外出届けを出して、家に忘れ物を取りに帰り、夕方病室に戻ると、突然古くからの友人がお見舞いにやってきた。確かに友人には入院する病院を知らせておいたけど、まさかお見舞いに来るとは思ってなかったので、かなりびっくりしたのだが、人には話せなかった手術前の本心を聞いてもらえて嬉しかった。

友人が帰ってからシャワーに入ると、すぐに消灯の時間。しかし、眠れない。どうやら非常に緊張してるようで、寝付けないのだ。さすがに0時を回りそうになるとまずいと思い、見回りに来た看護師さんに「どうしても眠れない」と話して睡眠導入薬を処方してもらい、それを飲んだら結構あっさり眠れた。

上の写真は、手術前の説明で使ったもの。私が診療を受けている大学病院では、こういう資料を使って説明してくれる。一応、この資料は病院オリジナルみたいだけど、どこでもこんな感じなんだと思う。絵の部分は、どこにどれぐらいの腫瘤があって(ここにも12mmって書いてある)、どのくらいの範囲を切り取って、センチネルリンパ節生検をしますよ、という内容。結構リアルなんですが、なかなか見る機会もないと思うのでご参考まで。
ちなみに、上の方にある落書きみたいなのは、一番左が通常の乳がん(いわゆる浸潤性乳管癌)の形、真ん中の平たい丸が私の小葉癌の形。なぜ私の乳がんが、触診で触れにくいのか、広がってる可能性がどうしてあるのかを説明してくれた。一番右が、傷の形と傷の位置。本当にこんな感じになるのかな……。

2013年4月1日月曜日

入院と手術2(入院当日)

入院の当日。午前11時前に入院する病棟へ向かう。

入院の当日の夕方に術式などを含めた相談をもう一度するという予定だったのだが、入院する数日前にボンボンから電話がかかってきて、どうやら入院してすぐに時間が取れそうなので、夕方まで待っていただく必要はなくなりました、とのこと。親切なのか、なんなのか、実はよくわからなかったけど、その相談の時間は、手術の同意書を書くために家族の立ち会いが必要だったから、立ち会ってもらう母にとってさらに都合がよくなり、内情は知らないくせに、タイミングが良い申し出であった。

入院手続きが終わって指定された病室に行き、荷物を整理していると、ボンボンが呼んでるからと看護師さんが私と母を外来センターまで連れて行ってくれた。私が診療を受けている大学病院の全体はとても大きいが、その中でも入院した病棟はとても分かりにくく、古くて暗い。外来センターは最近作られた建物で、その中央が吹き抜けていて明るい。入院した病棟と外来センターの間は、ガラス張りの長い渡り廊下のようなもので結ばれていて、入院している間は古くて暗い病棟にいるのが嫌で、体が動かせる時期は何度もここを歩いて用もないのに外来センターに行っていた。実際にこの渡り廊下は、術後などのリハビリにも使われているようだった。

外来センターにいくと、ボンボンが待っていて、乳房のエコー(超音波)検査をもう一度やるという。基本的に大学病院なので、エコーの検査をしている間中も、まわりで3人ぐらいの若手の医師(たぶん研修医)が見ていて、なるほど、これが教育の場ってやつかと、かるい視線の洗礼を受ける。しかし、この教育の「場」は、教授回診というイベントにて、最高潮を迎えることになる。

エコー検査のあとは診察室にて、術前最後の相談。あっさりと乳房温存術でお願いしたいと私が言うと、ボンボンはちょっと拍子抜けしたようだった。もちろん、そこに至るまでの思考の道筋があっての選択なんだけど、そんな話はここでは不要なのでどうでもいい。実際の傷の位置や長さ、部分切除後の乳房の形をもう一度説明してもらったけど、やっぱりボンボンの説明はよくわからなかった。内容は総じて、切除位置から考えると、まわりの脂肪(切除位置付近には、実は結構脂肪があるとのこと)を集めることで、乳房は丸くなる、ということだった。うーん。その丸というのは、元の形に沿って丸くなるのか、単に丸くなるのか、なんなのかよくわからないと思ったけど、すでに、ボンボンに説明してもらっても、私自身が納得できる答えをここで出すことは間違ってると結論付けていたので、術式はこれにて決まり。

その後、手術に関して、もう一度説明してくれたが、ちょっとその内容が変わっていた。

・再手術になる割合は10人に2人弱(お、少し少なくなった。実はこれ19%なはず)
・MRIとPET、エコーすべての画像で同じように腫瘤が描かれているが、その場合は所見通りなことが経験上多い
・ただし、小葉癌によくある形をしているので、頭の片隅に「再手術」という言葉を置いておいてほしい
・腫瘤径は最大12ミリぐらい(診断時より3ミリぐらい大きいかもしれない)
・触診と画像上では、リンパ節への転移は認められないが、センチネルリンパ節生検の結果、転移があった場合はリンパ節を廓清する

ここまで聞いて、ボンボン、すごい説明の内容が進歩してる!私が前回噛み付いた「20%の再手術は多い!」を、しっかりとカバーした説明になっている!と感動した。私が不安に思っていたことに対して、実際の数値と自分の経験、そして可能性を用いることで、過不足ない説明に進化させていた。オドオドしてるし、うっかり発言も多いけど、ボンボンに治療をお願いしよう!という気になったのは、これが理由だ。私がなぜ噛み付いたのかを理解しようとしてくれた姿勢が見えたからだ。

ただ、乳房の審美的な話は、最後までよくわからなかったんだけど……ね。

2013年3月31日日曜日

入院と手術1

入院の前日。実はその日まで台湾に行っていた(え〜!!)。
本当は温泉に行こうと家を出たのだが、なんとなく、そのまま台湾へ。
なんでそんなことをしたのか、ここでは説明する気はないが、まあ、私はそれぐらい台湾が好きなんで、それはそれでいいとして。

結局入院する部屋は、希望していた差額ベッド(特別療養環境室)代がかからない大部屋は空いておらず、2人部屋になった。この話は、入院前の診察の際に決まっていたことなんだけど、そこでボンボンの発言があまりにも失礼すぎて笑ってしまった。

私「はぁ、2人部屋ですか。同室の方とは上手くやっていけるでしょうか?」(←こんなことを聞く私がそもそも間違っていると、今更気がついた)
先生「大丈夫ですよ。気性の荒い方なんていませんから」(←気性が荒いって、その単語はいったいどこから来た。私の気性が荒いということを言いたいのか?)
私「(無視)同室の方は、同じ病気ですか?」
先生「そうですよ。乳がん部屋ですから。あ、同室の方はもちろん女性です」
��「乳がん部屋」ってなんだそれは……。同室が男性なわけないだろうが)
私「はぁ、乳がん部屋ですか。ところで、男性も乳がんになるんですよねぇ?」(←もうどうでもよくなった)
先生「そうそう、たまーになりますよ」(←おまえがなってしまえ!)

というわけで、私は気性が荒くない女性が同室の、乳がん部屋に入院することになったのです。

こんな失礼な発言ばかりしてたら、他の私よりもお年の患者は卒倒しちゃうんじゃないかしら、という話を知人にしたところ、年齢が上がってくると、女性というのは年下の男の言うことなんて、いちいち気にしないんじゃないの、大体男性なんて失礼なことをよく言うものだという回答をもらって、なるほどと思ったのでした。

私はたぶん、ボンボンが受け持っている患者の中では比較的若い方なんじゃないか(日本での乳がん患者は、30代まではかなり少なく、40代から爆発的に増えます。35歳以下での発病は若年性乳がんと呼ばれ、再発リスクの1つにもなるのですが、私の場合、一応そこはクリアしてる感じですw)、まだ悟りきれてないからいちいちカリカリしちゃうんだろうなぁと、もっと大らかな心を持って接していかないと、自分の神経も疲れちゃうなーと思ったのでした。いや、本当にボンボンは常にオドオドしているかつ、うっかり発言が多すぎるんですよ。診療自体に何か悪いところがあるとは思わないんですけどね。まあ、そのギャップが面白いというのもありますけど。

しかし、このボンボンは本当に腕利きなのかなーというのは、常に思ってることでもあります。ただ、個人的な見解として、この先生と共に治療を進めていきたいと思ったことがあった、というのも事実です。そのあたりは次回にでも。

ちなみに、後日談ですが、同室の方(恐らく、娘さんが20代後半なので、50代ぐらい。乳がんですが、気性は全然荒くなかったですw)と退院のときにちょっと話したところ、主治医の先生の話になりました。基本的に私が診療を受けている大学病院の乳腺外科は入院中は乳腺外科医の先生全員が1つのチームとなって患者を見るので、どの先生とも面識ができますし、症例自体も共有されています。で、ボンボンの話をしたら「●●先生って、あの坊ちゃんね♪」と、年上の貫禄を感じました。私もこうならねば……。

2013年3月26日火曜日

愚痴とかなんとか3:不安の理由

来週に手術を控え、色々とやることがあったり、なかったり。

仕事はやる気が起きず、実はこの1ヶ月ほどは、ほぼ何もやってないんですが。ただ、解雇されると治療費が払えなくなるので、復帰したらやる気だす……つもり。しかし、がんというのは、調べれば調べるほど、この先、どれだけ治療費がかかるのかがよくわからない。

標準治療ならまだしも、それが効かなくなって、保健でカバーできない領域に突入したら、いったいどうなるのか、本当にわからない。先がよくわからないことについて、お金をつぎ込ませるとは、なんと罪作りな病気のことよ。さらに、その先にあるのがほぼ死っていうのも、お金をつぎ込む意味がないしなぁ。なので、とりあえず、再発してもしなくても、すでに同じフィールドには飛び込んでしまっているわけなので、なんとか人並みな治療費を支払えるぐらいには仕事をさせてもらえると嬉しいな、と勝手な希望。

先週末は、突然、遠くに離れて住んでいる大学時代の友人のもとに行ってみた。その前日にも、少し遠い場所に会いたい人がいたので、その帰りに寄ってみたのだ。今回、どうしてもちょっとだけ頼りたいことがあったからなんだけど、旧交を温めるというよりも、結局私の暗い話が一方通行になってしまったようで、申し訳なかった。でも行ってよかったと思ってるけど。

いったい、あなたがどうしてこの不安に対する説明をするのだろうか?
その理由が、私にはわからないから不安なんだよ!


ここ数日は、来週の手術に関する術式の検討を、頭の中でしていた。どちらを選ぶべきか、ということで悩んでいたわけなんだけど、知人に相談などをしているうちに、私がなぜそれほど術式に悩むのか、その理由がやっとわかったような気がしている。

たぶん、乳がんになった人は、同じような悩みや不安を持ち、結局解消されないまま手術に臨んで、「あちゃー!」と思うか、「ま、こんなもんでしょ」や「あら、思ったより大したことなかったわネ」と思ってるんだろうけど。私はどれになるのかがわからないけど、とりあえず、日本の医療制度の問題じゃないかと思ってるんですが、それは、あのボンボン(あ、主治医のことです。もう面倒なので、ボンボン呼ばわり。そのうちたぶん、ボンとか言い出しそうだけど)がする、私の不安に対する説明の内容が不安にさせているということではなくて、ボンボンが説明をしているというその行為自体が私の不安を煽っているんだ、ということがわかって、なんとなくホッとしたという感じです(が、まったく自分の不安の解消にはならなかったんだけど)。

とはいえ、ボンボンが悪いわけじゃないので、どうしようもないんですが。簡単に言えば、ボンボンは外科医なんです。いくら乳腺外科医とはいえ、審美的な話をまともにできると思うこと自体が間違ってるんですよ。どこを、どう切って、どう腫瘍を取り出して、どう閉じる、という話や、取りこぼしがなく、切断端も陰性です、って話は彼の範疇だと思うのですが、温存術後の乳房が妥当な形で残るかどうかを見極めるのは本来、ボンボンの範疇ではないと思うし、そこに安易に手を出してほしくない。それなのに、「どう変形するのか」だなんて、聞く私もどうかと思ってるし、答えるボンボンもどうかと思うんだよね。それこそ、形成外科医のカウンセリングにするとか、もうちょっと不安を解消する方法って本当はあるんじゃないかと。そういうことをすると、医療費が上がるとか、いろいろ問題はあうんでしょうが、もっと専門医の領域を確立させてほしい、専門医だからこそ、その領域を極めてほしい、ということを切に思ったのです。

なんの話をしてるんだかわからん、という感じだと思いますが、自分の手術結果(病理診断結果の方じゃないくて、乳の残り具合)を見てから、またゆっくりこの件については書こうと思ってます。

で、術式は乳房温存術に決めた!再手術になったら、乳房切除→再建で!

2013年3月22日金曜日

診察と検査3

気がつけば、告知から1ヶ月経った。私の乳がん人生も歴史ができてきたなぁと思いつつ。

今日はこれまでの一連の検査結果を聞くのと、今後の治療方針の相談に。
これまで、ずっと私ひとりで告知も診察も受けて来たんだけど、毎度診察のたびに「おひとりですか?」と聞かれるので、今日はなんとなく暇そうだった父を連れて行ってみた(笑)。治療に関しては、この1ヶ月、情報を調べまくったおかげで標準治療に関しては大体の方向性が分かっているのと、とりあえず手術を受けて、術後の病理診断が出ないとこの先の治療方針は立てられないので、父が来たところで特に役には立たないのだが、やっぱり家族には聞いてもらっておいた方がいいかなという思惑もある。

主な話としては、PET/CTとMRIの検査結果は、どちらも1cm弱の腫瘍以外に所見は見当たらない(遠隔転移なし、腫瘍の広がりなし、リンパ節への転移なし)ということで、T1N0M0=ステージ1という当初の予定どおり、手術の術式は乳房温存で行けそうということになった。ただし、やはり小葉癌の場合の広がりは切除してみないとわからないと言われる。もしも温存した場合、術後の病理診断で切除範囲よりもがんが広がっている場合は、再手術になるとのことだが、どのくらいの割合でそうなるのかが気になると口を挟んだところ「10人に2人ぐらいかな」とのこと。「えー!思ったよりも多いですね」「いや、いや、少ないですよ」とさらりと主治医は言うが、10人に2人って、5人に1人ってことだから(なぜ、こちらを言わない!)、20%ですよ!多いでしょう?それ……。ちょっと、ちょっと、それは患者に対しての配慮が足りないですよー、もうちょっと言い方考えた方がいいですよーと思ったが、それを遮るように「こうやって画像診断して切除範囲を絞り込まなかったら、10人に4人が再手術なんですよ」と、それと比較してもしょうがないだろう?ということをしゃあしゃあと言いやがって、と思ったが、まあ、10人に4人の時代に比べれば、先生的には少ないんだろうから、まあいいや。あとで父と「どう考えても、5人に1人が再手術って多いよね」と愚痴り合ってしまったが(笑)。

そして、切除範囲は最大5cm程度(1cmの腫瘍回りにマージンを最大+2cm程度)となりそうで、どうしても温存した場合は、乳房の変形は免れない。どれぐらい変形するかはわからないそうだが(そりゃそうだが、思わず私と同じような位置で、同じぐらい切除した人の写真とかないんですかーと聞いてしまった←あったとしても患者さんの写真は勝手に見せられないし、そもそもそんなものもないと言われたんですが、いや、たぶん、探せばどっかにあると思うんですけど……)、そこでちょっと悩んでしまった。先生的には、全摘でもかまないが、それはそれで再建も大変ですよーと。そうなんだよね……。

確かに、再建は大変。でも、乳房の変形もやだし、そのうえ再手術になるのも辛いしと、とりあえず術式に関しては、手術の前日まで悩ませてもらうことになった。「それが今一番大変な悩みだと思うのですが、乳がんの場合は、手術は通過ポイントに過ぎないんです。その後の方が大切だし、長いんですよ」と、確かにそれはわかるんだけど、ね。前にも書いているとおり、乳房にそれほど執着はないんですが、私も女性なので、「あちゃー!やめとけばよかった!」ってなるのはイヤだなーと思うんですよ。取ったものは戻せないから。

その後、手術の日と入院の日を決めて、入院した日の夕方にもう一度、手術の術式に関して相談することにして今日は終わり。いよいよだな、という感じになってきた。

ちなみに、主治医に会った父は特に質問もしなかったが、診察室を出て一言。
「いいとこのボンボンって感じだなー。なんで乳腺外科なんて選んだんだろう……」
ナイス感想!ほんとうだわー!私も知りたいわー!
今度聞いてみよう(笑)。

2013年3月19日火曜日

愚痴とかなんとか2:情報はどこから?

全然、愚痴じゃないんですけど、自分がせっかく乳がんになったんだし……と思って、この先も同じ仕事を続けていけるのであれば(これが一番わからないんですけどね)、「そうだ、乳がんの本でも作ろう!」と思ったんですよ。タダでは起きないというのは、こういうことを言うんでしょうねぇ。

で、これまでにさまざまな出版社から出ている、乳がん本の売上データをざざっと見て推測するに……(職業柄見られるので)
えええっ!思った以上に、売れてない……。

現在、日本では年間5~6万人が乳がんと診断されているわけです。今後も増え続けるのであれば、実際のところ、パイが増えるマーケットじゃないですか。しかも、検診を受けた中から、実際に乳がんと診断されるのは、1%以下なんですよ。だったら、検診層~精密検査層までを取り込むようなものじゃないとダメなんでしょうね。患者の1%が購入してくださっても、わずか500部にしかならないので、それでは、設計が成り立たない……。まぁ、これこそ電子書籍!っていう考え方もできたりと、段々話がずれるので、本筋へ一度戻すとしましてね。

いわゆるネット上のQAサイトを見たって、かなりの人が「乳がん」への恐怖を感じているというのも、手に取るようにわかります。これだけ予備軍がいるのに、なんで「乳がん」の本って売れてないわけ……という私も、実は本を1冊も買ってません。買おうと思って本屋さんとかで立ち読みしたんですけど、別に手元においておきたいって思った本は1冊もありませんでした(私の職業柄、1冊ぐらい買いそうなものですがw)。結局のところ、インターネットにある情報で、標準治療の大体ってわかるものなんですよ。


実際に参照されている情報は?

日本の乳腺外科医や腫瘍内科医など、乳がんに関わる医師が参照している情報というのは、以下の3つが多いらしいのですが(そして、恐らくはそうです。必ず出てきますので)、これらは大体インターネット上で情報が得られるものでもあるのです。

・日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」
・NCCN(National Comprehensive Cancer Network)の「乳がんガイドライン」
・St. Gallen International Conference on Primary Therapy of Early Breast Cancerの「コンセンサス」


最後のものだけちょっと補足。2年に1回、スイスのSt. Gallen(ザンクトガレン)で乳がん初期の治療に関する国際的な会議が行われているのですが、これは世界中で注目されている乳がんに関する会議です。最終日に世界各国から集まった乳癌治療エキスパートによる「コンセンサス会議」で、新たな治療指針が示されます。これが「ザンクトガレン コンセンサス」として、乳がん初期の治療指針の最新情報となり、参照されることが多いのです。ちなみに、2013年度の第13回のカンファレンスはつい先日終わり、今後2013年度のザンクトガレン コンセンサスも見かけるようになることでしょう。

これ以外にも、ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)やサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)などの情報もよく参照されていますが、大抵は上記3つを元にしていることが多いようです。

上記の各ガイドラインを見ると、乳がんの診断がされており、病理的な診断まで含めてわかっていらっしゃる方は、自分が選ぶべき標準治療を組み立てられると思います。ただし、標準治療上で選択肢がいくつかある場合や、そもそも標準治療ではない治療法を選ぶ場合は、主治医との相談が必要になるとは思うのですが、通常の標準治療を選ぶのではれば、実際のところ「本」を買う必要がないというのも事実です。

特に、NCCNのガイドラインには日本語化されたものもあり、それを見ることで、今後どのような診断があれば、どのような治療が行われるかというのは、ほぼわかります。逆に日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」は、学会員でないと、詳細が見られないため、わからない部分もあるのが残念なのですが、これこそ書籍を買えば恐らくわかることなんではないかと。

というわけで、唯一読んでみたいのは日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」。これは、きっとよい選択肢な気がします(笑)。

あと、あまり情報がないところで、今後絶対的に必要になるのは、再発・転移に関してですね。基本的に乳がんが再発した場合、その先に治癒はありません。QOLを維持しながら、できるだけ長くがんと共存していくしかないのです。共存ができなくなった場合は、死です。ただ、乳がんの再発・転移に関しては、かなりのケースでコントロールが効くことが多く、年単位での生存期間が望めます。患者によっては、十年単位の方もいらっしゃるわけで、初期治療に関して、現状これだけ標準治療が確立した現在は、その先の再発・転移へのケアが求められているんじゃないかと思っています。

そろそろ私も最終的な治療方針が出るので、どうなることやら。えーっとですね、もし手術ができないと私が言っている場合は、いわゆる末期なんですよね。はああ……気が重い。

あ、たぶん、乳がん関連で唯一これは売れてると思うんですが、乳がん検診に対しての啓蒙にはなったかもしれないけど、知識としてはいらない本なので。えへへ。

2013年3月12日火曜日

「標準治療」とは2:外科手術と病期(ステージ)

前回はがんに対する「標準治療」とはなにか、という話をした。
繰り返しになるが、乳がんでは、次の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の出現や、がんの種類によって変わる)


これらの治療は、病期の確定後に進められることになり、その病期(ステージ)を確定するために、TNM分類が使われるという話をした。何度か同じことを書いているが、がんというのは、細胞の異変によって引き起こされる病気なので、いわゆる臨床診断(診察や画像による診断)だけでなく、病理診断(組織による診断)の2つの診断が合致することで、確定診断となる。病期(ステージ)の決定も例にもれず、ガンの確定診断が出たあとであっても、臨床診断だけで病期(ステージ)を確定することが難しい。

特に私の小葉癌の場合、これも何度も書いているが、術前に行われる一連の検査にて、がんの広がりが大半を占める乳菅癌よりも確定しにくいというのもあり、臨床診断によって、現在医師がカルテに記入した病期(ステージ)は、単に推定しているものと言ってもよいのだろう。とは言え、医師としても適当に治療を進めるわけではなく(当たり前ですが)、基本的に現状わかっていることをベースに治療を進めていくことになる。

・外科手術が適用になるのは
手術というと、その術式について話されることが多いが、まずは、乳がんの場合に外科的手術が適用になる病期(ステージ)があるということを知っておきたい。乳がんにおける外科手術は、乳房やリンパ節など、局所に現在見えているがんを取り除けるという判断ができるのであれば、手術が適用になることが多い。

ただし、遠隔転移がある場合は、すでに全身にがんが広がっているということになるので、手術の適用にはならない。また、遠隔転移がなくても、鎖骨の上下や胸の内側のリンパ節にがんが転移している場合も、ほぼ全身に転移が始まっているとなるため、手術の前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、その結果改善が見られた場合のみ、手術もしくは放射線治療などが行われることになる。

前回のTNM分類によれば、手術が適用となるのは、病期(ステージ)0~3Aまでだ。以前上げたTNM分類の表は、病期(ステージ)3が3Aと3Bしかなく古いものだが、現在は3Aに加え、3Bと3Cに分けられ3つになった。こちらの表にある3Bのうち、T4+N0、N1、N2+M0が病期(ステージ)3Bになり、それ以外が病期(ステージ)3Cとなる。

・外科的手術の術式
現在、乳がんで行われる外科手術は以下の2つから選択されることが多い。

乳房温存術
がんを含めて乳房を部分的に切除し、乳房を残す方法。円状に切除する場合と扇状に切除する方法がある。現在は、乳がん手術の約半数で乳房温存手術が行われるようになった。

ただし、この乳房温存術を取るには、腫瘍の大きさ(通常は3cm以下)や、患者の乳房の大きさに対する腫瘍がどれぐらいの範囲を占めるのかが加味されて適用されることが多い。現状では適用にならなくても患者が希望する場合は、術前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、腫瘍が確実に小さくなった場合に適用するというケースもある。

なお、乳房温存術の先進国(欧米)では、温存乳房内での再発が増えたとの報告もあり、以下で解説する乳房切除術が段々また増えているそうだ。この術式の普及が10年遅れたと言われる日本では、今後どうなるのか注目されている。

また、無理な乳房温存術は、結果として崩れた乳房になり、患者のQOL(quality of life)が著しく低下するといった報告もされており、外科医にも審美的な観点から削除範囲を決められる手腕が必要になる。

乳房切除術
がんを含めて乳房全体を切除する方法。通常、胸筋(胸の筋肉)を残す手術が行われるが、がんが胸筋に入っている場合は胸筋も一緒に切除する。最近は全摘というと、この乳房切除術を指すことが多い。

乳房切除術では、すべての乳腺組織と脂肪組織、乳頭を切除して、残った皮膚を繋ぎ合わせる。つまり、術後は平たい胸になる。しかし、形成外科医により、失った乳房を作り直す「再建」を選ぶことができる。再建方法には、一期再建(乳がんの手術とともに再建を行う)、二期再建(乳がんの手術後に、改めて再建を行う)があり、術式にはおなかの組織や背中の組織といった自家組織を使う場合とシリコンなどの人工組織を使う方法の2種類がある。

なお、これまでシリコンなどの人工組織には、健保が適応にならなかったのだが、これが4月~5月ぐらいから適用されるとのこと(ちょっとどうなるかよくわからないので、次回主治医に聞く予定)。


リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検

センチネル(sentinel:英語で「見張り」という意味)リンパ節とはわきの下のリンパ節のうち、最初にがん細胞がたどりつくリンパ節で、乳がんでは、あきらかにリンパ節への転移がない場合でも、手術前もしくは手術中にセンチネルリンパ節を切除して、がん細胞の有無を調べる検査(センチネルリンパ節生検)を行うことが多い。

その理由は、センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、その先のリンパ節にも転移はないと判断でき、わきの下のリンパ節はそのまま残すことができるからだ。センチネルリンパ節にがん細胞が発見された場合は、リンパ節をすべて取る(これを「リンパ節郭清」と呼ぶ)方法を選ぶことになることが多い。

センチネルリンパ節生検を行うことで不要なリンパ節郭清を回避でき、リンパ節郭清を行った場合にその30%に起こるとされている浮腫や運動障害などから逃れることができるとされている。ただし、問題はそのセンチネルリンパ節を同定(確定)できるのが95%ほど。さらに同定できた場合でも生検によって陰性(転移なし)とされた症例のうち、数%は偽陰性であり、術後の病理的組織診断によって転移がわかるケースもある。

このセンチネルリンパ節生検は、2010年より健保適応となったため、一般的な乳がんの手術で適用されることが増えている。

次回は、放射線治療とホルモン療法、化学療法、分子標的療法について、また紐解いていきたい。乳がんの場合は、術後の全身療法に選択肢があり、適切な選択肢を選ぶことで、生存率の改善が望める。自分のがん細胞の増殖などに関連する因子により、治療方法をオーダーメイドできるのだ。しかし、複数の治療方法があるからこそ、患者は自分の状態を見極めたうえで治療方針を決定し、治療方法を選んでいく必要があることも事実である。

ちょっと話がずれるが、私の母は私の乳房がなくなる(というか手術する)ことに対してひどく動揺しているようで、知人などから仕入れた情報をたまに知らせてくれる。「○○さんの奥さん、乳がんだったらしいんだけど、手術せずに抗がん剤やったら、がんがなくなったんだって!手術もしてないみたいよ!」
母にとって、これは娘に対する朗報だと知らせてくれたんだと思うけど、もし、その奥さんが標準治療を選択して、現在に至っているのであれば、恐らく、転移があって手術が適用にならず、抗がん剤を行ってみたところその効果があって、がん自体が見えなくなったということだと思う。残念ながらがんそのものは、抗がん剤で治ることは非常に少なく、現在なくなったとしても、そのうち再発してもおかしくないし、再発しないかもしれないし、といったところだろう。母はこの治療方法を娘にも適用したいと思ったのだろうが、私が同じ治療方法になる場合は、手術ができないほど広がっているからっていう可能性の方が大きいんだよということを説明せずにはいられなかった。
以前、自分のこれまでのがんに対する知識に関して「徹底的に違っていた」というのはこのことだ。もしかしたら、薬だけで治るのかも、手術しなくてもいいのかも、というのは、標準治療を選ぶのなら、早期であれば手術なしでは治療とはならないため、通常は存在しない選択肢になる。もちろん、標準治療を選ばないという選択肢もあり、それを実践している方も多くいるのだが、私には、選ばない理由が今のところ見つけられないというのが本心だ。まずは、「EBM(evidence-based medicine)=根拠に基づいた医療」を、主治医と相談しながら選択し、標準治療が合っていないということがわかり次第、また別の手を打つといった方針を考えている。

2013年3月8日金曜日

愚痴とかなんとか1:どうでもいいこと

淡々としたまとめではなくて、いわゆる愚痴的などうでもいいことを。

ちょっとだけ書いてみたけど「なんで私が?」「どうして私が?」というのは、どうしても避けられない気持ちで、どうしようもない。だから正直な話、毎日呪ってる(笑)。何を呪ってるのかと聞かれると、よくわからないので困っちゃうんですけど。

乳がんになった理由も探してみるわけなんですが、乳がんにならなくても、リスクファクターとして上げられているもので、1つも引っかからない女性って、実はほとんどいないんじゃないかと思う。もちろん、1つもひっかからないのに、乳がんになった人っていうのは、もっと辛いんだろうけど。私にとって一番大きいリスクファクターは、妊娠出産をしていないことなんだろうと思うけど、私とまったく同じリスクファクターに当てはまっていても、乳がんにならない人もいるのも事実で、結局、リスクファクターが決定的な要因になっているとは言いがたいんじゃないだろうかと思っている。だから「なんで私が?」「どうして私が?」と思うのは間違ってないと思うんですよ。ほらね、どうでもいい話でしょう?

私が乳がんになって、今後辛く思うのだろう、現在でも辛いなぁと思うのは……

・ホルモン治療を受けることになるので、この先出産はほぼ無理

これは告知を受けた際に、すでに言われていたことなのですが、特に書いていませんでしたね。手術後、再発しなければ最低5年はホルモン治療を受けることになるので、その間閉経状態になるため妊娠はできません。また、その間に妊娠したとしても(たぶんしないと思うんだが……)、健康な子供は生まれてこない可能性が高いのです。

だから、今、妊婦さんや、お子さんを連れている方を見ると、なんとも言えない気持ちになる。今まで妊娠/出産を望んだことがほとんどなかった(相手がいないというのが一番大きかった)けど、今更ながら、無理だということになったら、逆にすごく残念な気分になっています。かなりリミット年齢にいたからというのもあるんだろうけど、今後は妊娠が無理と知ったとき、がんの告知もあったのですが、妊娠ができないという話の方が実はショックでした。なので、妊婦さんやお子さん連れの方を見ると、今は自然と涙がでてきます。そのうち慣れるとは思ってるけど。

何十万円とか払えば、卵子を凍結保存できるみたいだけど、この年になってしまうと卵子自体も年をとってるだろうと思ってるので、今更しません。結局その卵子を使っても、妊娠できる確率は2〜3%ぐらいだと何かで見かけたので。まあ、私の小葉癌になる確率の方が高いくらいですかね。あはは。

・「再発」の恐怖を感じながら生きなくてはならない
まずは、今書いている「標準治療」を受けないとならないわけだが、どんな初期でもがんの根治はかなり難しい。私の場合は、手術が終わらないと、どういう結果が出るかがわからないものの、この先常に「再発」の恐怖とともに生きなければならない。ステージごとの生存率が出ているけど、どんなにそのステージの生存率が高くても、生存率が100%でない限りは、患者にとっては0%か100%しかないと思う。特に、私は、今回の小葉癌になることで、自分が5%の域に入ったということから、小さな数値にも普通に入ることがあるんだなぁということを知ったような気がする。だからこそ、恐怖をより感じるようになった。

このあたりでしょうか。たぶん、今後どんどん増えそうだけど。

あとは、月並みですが、人間には寿命があるということを改めて感じている。がんの場合は、進行することである程度余命がわかるので、それって実は幸せなのかもしれない。がんで突然死は基本的にないから、ある程度の期間でやりたいことをやってから、死ねるのはいい。自分で余命は決められないけど、がんの場合、比較的ゆっくりと死へ向かっていくことから、slow deathと呼ばれる理由もわかるかも。
「今から、なに言ってるの!」と思われるかもしれないけど、今、自分の死を確実に意識できたというのは、よかったと思っている。「私としては」という前置きがつくけど。

2013年3月6日水曜日

「標準治療」とは1:TNM分類

乳がんだけでなく、がんの治療の基本には「標準治療」が使われる。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される治療の総称だ。

よく、「最先端の治療」などがメディアで紹介されることがあるが、最先端だから最も優れているというわけではない。最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明されれば、「標準治療」として組み込まれることになるが、それまでは標準治療とはみなされない。

もちろん、標準治療以外の方法を選ぶこともできるが、強い理由がない限りは、基本的に標準治療を選ぶことになるだろう。乳がんの場合の標準治療は、病期(ステージ)にもよるが大抵は次の3つがセットになる。

・外科的手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
(上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の出現や、がんの種類によって変わる)


これらの治療に入る前に、まずは病期(ステージ)を確定しなければ、治療は進められない。すでにいくつか病期(ステージ)に関する内容をエントリー内で書いてきたが、改めてその内容を記してみたい。

・TNM分類

乳がんの「進行度」の指標、つまりその人の乳がんがまだ早い状態なのか、もう手後れに近い状態なのかをいくつかの段階に分けて示す指標が「病期(ステージ)」だ。手術前の臨床診断結果で病期(ステージ)を推定しておき、手術後の病理診断結果を持って確定することが多い。そして、病期(ステージ)を示す際に1番よく使われる分類が「TNM分類」である。

Tとは乳がんの腫瘤(Tumor)のことで、Nはリンパ節(Node)の転移のこと、Mは遠隔部(肺、骨など)の転移(Metastasis)のこと。そしてこのT、N、Mの組み合わせにより、病気の進行度を表す。

・TはT0~T4までの5段階
・NはN0~N3までの5段階
・MはM0とM1の2段階

前回のエントリーで「T1N0M0=ステージ1」だとか「T3N2M0=ステージ3」だとかとちょっと書いたんだけど、次の表を見てもらえば、病期(ステージ)が同じでも、TNMの組み合わせは異なることがあるというのが、わかってもらえると思う。乳がんでは、このTNMを使って病期(ステージ)を表すことがほとんどだ。ちなみに、手術後の病理診断結果によって確定したTNM分類は、Tの前に小文字のp(pathologic=病理学的)を入れて、pT1N0M0などと表記することもあるらしい(NCCN=全米がん情報ネットワークのガイドラインより)。



実際のところ、ほんの1ヶ月前までは、まさか自分ががんになるなんて、思ったことはなかった。そのうちあるかも、というのはあったけど、現実味を帯びた考えではなかった。そもそも、女性の20~16人に1人の割合で乳がんは発症するといわれているので、生涯乳がんにならない女性の方が多いのだから。
なのに、「なぜ私が?」というのは、私もそうだし、恐らく乳がんになった誰もが思っていることだろう。
知人などに、乳がんの話をすると、「初期なら乳房を手術しなくても大丈夫なんでしょ?」といわれることがある。私も実際、そんな感じだった。腹腔鏡みたいな手術とかもできるんじゃないの?とか、薬である程度治ったりするんじゃないのかって。それは、まったく違っていた。徹底的に違っていたのだ。
次回からは数回に分けて、標準治療のそれぞれについて、今回説明した病期(ステージ)と乳がんの種類、がん細胞の増殖などに関連する因子などとともに、紐解いていく。

2013年2月28日木曜日

診察と検査2

初めて大きな病院に、病気で診療に行った。壁に激突して、救急車で大きな病院の救急科に担ぎ込まれ、3針ホッチキスで留めたことはあったけど、がっつり診療を受けるのは、生まれて初めてのこと。
あまりにも大学病院は大きくて、外来専門のセンターにたどり着くまで、病院の敷地らしき場所に入ってからさらに10分以上かかり、よくわからなくて口が空きっぱなしだったんじゃないかと思う。

そして、指定された10時前に初診の受付をして、さらに30分ぐらい待つと、担当の先生の前に違う先生による予診があった。現在、どのような診断を受けていて、どういう経過を辿って来たのかを聞かれ、目の前でその内容が電子カルテに書き込まれる。さらに、今日の検査の予定表が渡される。それぞれ検査を受ける場所が違うので、どでかい外来センターの中を行ったり来たりをしながら、気がつけば、もうお昼もとうに過ぎていた。そして、午後になり、今日受けた検査の結果が出たということで、やっと紹介された医師と初めて顔を合わせる。たぶん、私より少し若いんじゃないかと思う男性の医師で、メガネをかけていて、とても温厚な印象。

その第一声が、前回のエントリーの最後の言葉。クリニックでも病院でも「よくこの状態で〜」という言い方をされているんだけど、だからといってそれが「よかった」という意味では決してない。その理由は私の乳がんが小葉癌だからというのがある。見つかった腫瘤は左上の端にあるらしく(私自身、未だに自分では触ってもよくわからない……)、ここにあったから見つかったんだろうねぇ、あとは、やっぱり診断を受けたクリニックの先生の力量ということを言われる。

基本的に乳がんの大多数を占める乳管癌の場合は、手術前の臨床(MRIなどの画像)診断で大体の範囲がわかることが多いのだが、小葉癌の場合は実際に手術をしてみないとわからないことが多いらしい。だから、現状は1cm未満と言われている腫瘤も、開けてみたら10倍ぐらいあった、ということがざららしいのだ。もちろん、現状どおりということもあるのだが、それがどちらになるかは、正直言ってわからないと言われる。

先生の触診によると、すごくしこりが触れにくいので、これは通常の触診だと見逃されちゃうね(そのとおり、この2年まったく異常を指摘されなかった)、あと、なんとなく広がってる感じがするのと、実は触診が当たることもあるんだよね、ということで、カルテには触診で約10mmの腫瘤+乳頭方向に約15mmの広がりの可能性あり、と書いていた(この辺りは専門用語で書いてるんで、私の方で平文にしてますが)。電子カルテって患者の目の前で入力してくれるので、ディスプレイを見ながらメモも取りやすくて便利だなぁと、本当はあまりいい内容じゃないのに、感心してしまった。

現状の病期はT1N0M0(ステージ1=腫瘍の大きさが2cm以下、リンパ節への転移認められず、遠隔転移なし)と書き込まれるが、手術後の病理診断結果でT3N2M0(ステージ3=腫瘍の大きさが5cm以上、リンパ節への転移あり、遠隔転移なし=これに関しては、恐らく現状ではないはず……)など、一気に病期が変わることも珍しくないという。これは、私も検索したblogなんかで、手術前にはT1(早期)と診断されていたのに、手術後にT3になっている小葉癌を何人も見た。だから、こういうことが起きたとしても、まったく不思議ではないし、小葉癌の典型でもあると覚悟している。

ただし、針生検で取った組織の特殊検査の結果は、ホルモンレセプター(ER/PgRともに)陽性、HER2陰性なので、がん細胞としての悪性度は低めになりそうだということ。とは言っても、これもまた眉唾で、手術後の病理診断結果で20%ぐらいが変わると言われている。

最後に今後の治療方針の話になる。先生としては、小葉癌だからという治療法を取るのではなく、間口を広く考え、これからの結果結果によって、その先を決めて行く方針で行きたいと言われた。私もその点では一致しているのだが、とにかく小葉癌の予後が何よりも心配であるということを話す。

すると、情報が少ないのは事実だが、先生の経験上、基本的に小葉癌の場合、がん細胞の悪性度は低めで私の現在の特殊検査の結果も例に漏れず。だから、再発する場合も数年という単位ではなく、もっと時間が経ってから、10年単位でというケースが多いらしく、つまりはがん細胞の増殖速度は比較的緩やかであるということなので、今から予後の心配はそれほどしていない。ただし、両側に発生する可能性が乳管癌よりも高いのは事実なので、反対側は今後注意すべきことである、と。この反対側にがんがまた発生した場合は、再発ではなくて、すでに現時点であったものであると考えることになる、との話だった。

手術は先生としては、現状では乳房温存を考えていて、先ほどの広がりがあったとしても、温存で行ける、と。ただ、その前にMRIで切除範囲をもう一度確認して、最終的に決めましょうということで、今回の診察は終わり。ただし、さっきも書いたとおり、小葉癌の場合はMRIでも広がりがなかなか確認しにくいらしい。だから、そこで広がりが確定でき、思ったよりも広がっているようなら、全摘ということも考えなくてはならないねと、いずれにせよ、どれもこれも賭けみたいなものだなぁとぼんやり思った。

次回までにPET/CTで全身の状態を確認して(遠隔転移があるかないか)、MRIで乳房内の広がりを見て、その結果を持って、3月3週目に最終的な手術の切除範囲と今後の治療方針を決めることになった。

乳がんと診断された当初は必ずセカンドオピニオンを……と思っていたが、私の小葉癌の場合、臨床だけだと意見を聞いても実際に手術で変わることも多いため、手術前に誰に聞いてもあまり意味がなさそうな気もしてきた。なので、今のところはこの先生に手術をお願いするつもりでいる。私の心配は、とにかく手術よりもその後のことだ。何が何でも温存ということも考えていなくて、もちろん、できればそれに越したことはないけど、癌の広がりの状態によっては全摘になっても構わないと思っている。ただ、その場合は同時再建がしたいので、そのあたりは手術の話を最終的に決めるときに、もう一度確認して、どうも私の希望どおりにはならないようならば、その時点でセカンドオピニオンを申し込もうと思ってる。ただし、そうすることで、手術がどれだけ遅れるのかがわからないというのも不安だ。とはいえ、治療方針が決まってもいないので、セカンドオピニオンは申し込めないし。

とりあえず、PET/CTとMRIを受けた結果を待つことにする。

しばらくは検査だけなので、その間に標準治療の手術後のことを調べはじめた。

2013年2月27日水曜日

診察と検査1

乳がんの診断をしてくれたクリニックは、診断にて終わりになる。
次は、全身の検査を行ったり、手術をしたりするために、病院施設に行く。

私が選んだクリニックでは、基本的に次のステップは患者個人が決める。
ただ、私個人としては、どの病院に行けばよいのかがわからなかったのでクリニックの先生に意見を仰いだ。

今住んでいる場所と勤務地を話すと、通いやすそうかつ、先生もよく知っている腕利き(らしい←伝聞なので真相はわからない)の乳腺外科医がいる病院をいくつか紹介してくれたので、その場で決めると、その乳腺外科医に直接電話をしてくれ、次の診療の予約を取ってくれた。

ちなみに、このクリニックの先生はかなりクセがあるとは思うけど、私は行ってよかったと思っている。乳がんの告知はあっさりしていたが、突き放しているわけではなく、1時間以上説明などに費やしてくれた。半分以上は、私の珍しい乳がんについての説明だったのだが、残りは先生の診断に関してのあれこれ。中でも心に残ったのは次の内容。

「患者の命を救うために、医者をやっているわけではない。ハッキリ言って、そんな想いは医者になって2年ぐらいで消えた。今、なぜ医者をやっているかと言えば、それは趣味だから。自分の趣味は、乳がんに関する検診と診断なので、その分野において趣味を追求することで、結果として非常に高い精度の診断や検査を提供できているという自負がある」

色々と意見はありそうだが、この考え方も一理あるなと思った。日本では、乳がん検診は結構適当に行われているというのが現実らしく、このクリニックの先生は、そういった現実に対して警笛をずっとならし続けている。なので、患者の命うんぬんの発言は恐らく詭弁だろうし、患者不在の検診と診断をやっているわけではもちろんない。患者に対しても、とても誠実で分かりやすい説明をしてくれる。ただ、同情というのは一切なかった。淡々と私の乳がんの特徴と、起こりうる最悪の状態をすべて説明してくれた。だけど、こういうドライな先生というのは、好みが分かれそう……もっと優しく話してほしい、とかね。

なんとなく他人事のような言い方だけど、私のようにちょっと特殊な乳がんを発見できたということがこの先生のモチベーションやプライドにつながり、さらに趣味へのめりこむための触媒になってくれればうれしい。私のような珍しい乳がんを、今後も1人でも多く早い段階で発見してくれますように。

そして、私の乳がんは、やはりこのクリニックに行ったから見つかったようだ。次に訪れた大学病院の先生の第一声。「よく、この状態で見つかりましたね。見落とされてもおかしくないですよ。ああ、●●先生のご紹介なんですね。精密検査にこのクリニックを選んで正解でしたね」と。
そうだったのか!

2013年2月25日月曜日

病名

私の乳がんの正式な病名は以下のとおり。
浸潤性小葉癌
しんじゅんせい/しょうようがん、と読む。

乳がんは、その名の通り乳房にできるがんの総称だ。
乳房内は主に、組織を形づくるじん帯と脂肪、それらに守られた乳腺葉、乳頭へつながる乳管の4つの部分でできている。腺房という組織が乳管でつながれてまとまったものが乳腺小葉、乳腺小葉が乳管でつながれて集まったものが乳腺葉だ。

乳頭から乳管があって、そこからぶどうの房状につながっているのが乳腺葉で、ぶどうの房全体が乳腺葉、ぶどうの粒が乳腺小葉というイメージ。出産に合わせて乳腺小葉で産生された乳汁(母乳)は、乳管を通って乳頭から外へ出る。

その乳汁が産生される部分にがんができた、というわけだ。

乳がんというと、その90%が乳管から発生する「乳管癌」を指すのだが、私の場合は特殊型の1つになる。特殊型の中では比較的多く、乳がん全体の4~5%を占めている(少ないな……)。
日本では、少し前まで1~2%と本当に少数だったみたいなんだけど、最近は増えているとのこと。外国でも少数派で、やはり5~10%程度とされている。

小葉癌は、乳管癌に比べてがん細胞が小さく、次のような特徴を持つという。
・細胞が飛び散りやすいので、多発しやすい(しばし両側に見られる)
・遠隔転移をする場合に、乳管癌の遠隔転移(骨、肺、脳)とは違った場所に転移しやすい
・抗がん剤が効きにくい(そのかわりホルモンに対する内分泌療法が効くとされている)

以下の2つは、現時点ですでにコメントを付けられる特徴。
・50歳以上の閉経後の方に多い
※私、まだ30代なんです……もちろん、閉経もしてません。

・しこりが触れにくいことがあり、進行した状態で発見されることが多い
※この、しこりが触れにくいというのは本当でした。今だに私は、自分で触ってもよくわかりません。
※なお、マンモグラフィーには、去年も今年も何も写っておらず、エコーでしか出ませんでした。

予後は乳管癌と比べて確実に悪いというわけではないらしいのだが、どうもサンプル自体が少なくて、エビデンスもはっきりしてないんじゃないかと思う。とにかく、調べてもあまり情報が無いので、この先どうなるのかがよくわからない……。予後が悪いと書かれているものもあれば、初期であれば乳管癌よりも、予後がよいという結果があるとしているものも。ま、いずれにせよ、患者個人個人にとっては1か0なので、どうしようもないといえば、そうなんだが。

ただ、確かに、乳がんの方のブログとかを見ても、浸潤性小葉癌の方は本当に少ないし、自分と同じ状況にいるような方は見つけられなかった。そりゃ、そうだよね。5%だもの。でも、特殊型の中では多かっただけ、ましなのかな。

診断をしてくださった先生によれば、原発の腫瘍だけで、多発さえしてなければ、乳管癌と同じ治療になるとのこと。その確率は五分五分ぐらいかな、ですと……。とりあえず、全身の検査の結果を待たねば。

2013年2月22日金曜日

報告

告知から一晩あけて、今日。
なんだかノドが痛くて、熱があるようだ。

すぐに悪いほうに考えてしまうけど、昨日と今日で病状が大きく変わるわけがない。
この数日、かなり精神的に辛かったわけだから、とりあえず結論が出て、ほっとして熱が出たんだと思う。
ただ、これからは、そんなのん気なことも言っていられなくなるんだろうけど。

今日は会社で上司に報告。
私の直属の男性と、その上の女性。
昨日のうちに、今日の午前中に時間がほしいとメールをして、乳がんになったということも知らせておいた。
相手が初めて聞く際、おどろく反応を見るのが辛いので、先に文面で知らせておきたかったのだ。
同じ説明を2度するのもいやだったので、一緒に話してしまいたかったけど、たまたま男性の上司が先に出社してきたので、とりあえず、現状を話す。

家族以外に話したのは初めてだったので、やっぱり涙が出てしまった。
おそらくそうだろうと思っていたから、最初に「泣くと思うんですけど、気にしないでください」と告げておいたけど、涙がこれぞとばかりに出て、自分でもどうしようもなかった。

ただ、そこで、大体話す内容が決まったからか、次の女性の上司と話すときは、落ち着いた会話に。
その場にも直属の上司が同席。

とりあえず、治療方針がまだ決まらないので、会社をどれぐらい、どのタイミングで休むことになるかはわからないから、まずは、それが決まってからだねということで今日は終わり。

来週は、大学病院へさらに検査に行く。

2013年2月21日木曜日

告知

今日、クリニックで乳がんが確定した。

思ったよりも冷静なことに、自分自身でもびっくりしている。
確かに、私は守るものもない身分だからなのかもしれない。
きっとこれから、色々と悩んだり、苦しくなることもあるだろうけど、その初日である今日は、意外と平気なのが不思議だ。
あとでこの日の日記を読み返して、色々思うんだろうな……。

検査結果を聞いて、駅に向かう途中に母に電話をした。

「やっぱり、乳がんだった」
今度は涙も出てこなかった。

電話を切るときに思わず言ってしまった。
「私はママを看取るまで、絶対に死なない」

やっと、涙が出た。
本当に看取れるのだろうか。

現状などの詳しい内容は、週末にまとめてアップする。

2013年2月14日木曜日

針生検

選んだクリニックは、町中にある普通の個人クリニックだ。
乳腺外科専門のようで、乳がんの診断人数も非常に多いようだ。

私がそのクリニックを選んだ理由は次の2つ。

  • 臨床だけでなく、病理がしっかりしている
  • 確定診断を付けることをモットーにしている


乳がんだけでなく、細胞の悪性化であるがんの場合は、
臨床診断(いわゆる画像診断)と病理診断(組織診断)の2つの診断が
合致することで、最終的な確定診断となるようだ。

特に乳がんは、画像による診断が難しい部分もあり、誤診もそれなりに
あるという(どの病気でもそうだろうけど)。
中でも、乳がんの病理診断の方法には以下の2つを使うことが多い。
・穿刺吸引細胞診(細胞診)
・針生検(またはマンモトーム生検)

細胞診は、その名のとおり細胞を少し取って検査する。生検は、実際の「組織」を取る。
細胞診では、悪性か良性かを判断するための検査とされているので、そこでグレーな
判定が出れば、通常は針生検(マンモトーム生検)を行って、診断を確定させる。
ただし、臨床ですでに悪性の疑いが強い場合は、細胞診を飛ばして針生検を行うことになる。
針生検では、悪性か良性かはもちろん、細胞診ではわからない特殊検査(ER、PgR、HER2)なども同時に行える。これらの特殊検査の結果からわかるのは、がんの顔つきだ。

このクリニックは、その生検の診断をつけるために、日本でもトップレベルの
乳がんの病理医がいる乳がん病理診断専門施設に出していることを公言している。
それが、最終的に私がこのクリニックを選んだ決め手になった。
恐らく、他のクリニックでもそこに出しているところはあると思うけど、とにかく、病理でグレーな確定をされることだけは避けたかった。加えて、誤診の可能性も少しでも減らしたい。

ほかにもいくつか候補はあったが、何よりも最終的に決めてになったのは病理医。
もちろん、診察する先生の評判も見て。告知も隠さずズバッと言うらしい。
上の空で仕事をしたのち、夜、会社から直接クリニックに向かう。

クリニックにはほかの患者さんは誰もいなかった。
到着して受付で検診施設から送られてきた紹介状とエコー画像を渡し、問診表を書く。
すぐに診察室に呼ばれたので入ると、ズバッと物を言うとネットで評判の先生がそこに。
緊張しているので、私自身も何をどう話していいかよくわからず、とりあえず、「よろしくお願いいたします」とぺこりとお辞儀をする。
すると、送られてきたエコー画像は不要だと返され、「とりあえず、検査しましょう」と始まった。

・マンモグラフィー
・エコー

と、これまでと同じ検診を行い、エコーは先生が自身で見る。
右胸は以前と同じく、すぐに終わり、問題の左胸。
左胸の外側の上の方で何度もまた繰り返し見ている。
「ああ、これですね」。

「ちょっと組織を取って確認します」と先生が告げ、何か用意を始めている。
これからあの細胞診かと思ったら、看護婦さんに向けて「坂元で」と言っている。

心の中で「え!」と叫ぶ。
じつは、この坂元というのが、このクリニックが出している病理診断医の苗字だ。
じゃあ、これからやるのは針生検ってこと?!つ、つまり……。

「少し太い針を刺すので、麻酔をします。バネでパチンパチンと針が出て、数回組織を取ります」
と説明をして、すぐにスタート。
麻酔をしているのでまったく痛くないが、かなりの衝撃がある。

終わって、看護婦さんにガーゼを当ててもらい、抗生物質の処方があることを知らされ、
また診察室へ。
席に座ると、エコーを見せてくれる。
「ここに1cm弱ぐらいしこりがありますね。それ以外はキレイです」
「1週間後に検査結果が出ますので、その時に」
で、終わってしまった……。

受付で次回の予約を取って、そのままクリニックを後にする。
薬局に寄って、抗生物質を処方してもらい、駅に向かう。
途中で母に電話をする。

「たぶん、私、乳がんだと思う」
口にしたら、涙が出そうになった。

細胞診なしに針生検をするというのは、それだけ悪性の疑いが強いということだ。
これで、良性の結果がでたら、それは奇跡なのかもしれない。

最近の口コミがないので、よくわからないが、見た限りだと、私が訪れたクリニックでは、病理の検査をした場合に、悪性の可能性が高いということを事前に先生から告げられ、実際に検査結果が悪性だったという人が多い。
私は何も言われなかったっていうことは、非常に悪いってことなんだろうか?と、正直なところ、おびえている。
私が何も質問をしなかったから、特に説明がなかっただけなんだろうか?

がんの診断が下されることは、この時点である程度覚悟があるのだが、その状態がすごく悪いのではないかというのが怖い。

通常、私のように1cm程度のしこりで、リンパ節に転移がない場合は、乳がん初期のステージⅠとなる。
ただ、移転がある場合は、2㎝未満でも、ステージⅡa。
ⅠとⅡaの10年生存率は20%ほど違う。
ステージⅢは、さらに転移が進んだ局所進行乳がんで、10年生存率はぐっと下がる。
そして、遠隔転移がある場合は、ステージⅣで末期だ。10年生存率は3割程度。
こうなれば、手術もできず、緩和治療を行って、生存期間を延ばすことが目的となる。

このあたり、実はもっと細かい分類があって、それは乳がんの確定診断がされないとわからない。

果たして、私は、いったい……。

2013年2月13日水曜日

台湾でライブ

週末は3連休で、色々と考える時間はあった。
だというのに、どのクリニックにするか、色々と考えるばかりで、最終的に決められない。
母には、家を出るとき、会社の近くのクリニックへ木曜日に行くと決めたと知らせておいたけど、実はまだその時点で、どのクリニックにするかは決めかねていた。

連休が終わり、火曜日。
実は水曜から木曜の朝まで台湾に行く予定だった。
とあるイギリスのバンドのライブを見るために、まるで日帰り国内旅行のようなスケジュールで台湾へ。
そんなこと、親にはいえないので、内緒にしていたんだけど。
だから、最速でも木曜日の午後が精密検査を受ける日程になるわけだ。

台湾はちょうど旧正月の元旦から4日め(初四という)だったので、少しずつお店などが開く時期。
私の台湾人の友達は、ほとんどが実家に帰っているというのもあって、特に連絡などはせず、誰にも会わなかった。
いつも行っているお店はまだ閉まってたので、ライブに行くだけという感じの過ごし方。
あとは、毎年あるお菓子屋さんの春節ギフトをゲットしているんだけど、今年はそのお菓子屋さんにまで行ってる暇がなかったので(台北にお店はない)、台北のホテルに送ってもらったから、それも受け取りたかったのだ。

日本ではない国で台湾人でもないバンドのライブを見るという経験はそれなりに面白かった。
でも、やっぱり、頭の隅に検査のことがずっとひっかかる。
ライブを見終わったあと、1人なのにアップグレードされた広いホテルのスイートルームで、
行くクリニックを決めた。

そして、翌朝帰国。
そのまま会社に出社する途中、クリニックに電話をすると、今日の夜でも精密検査を受けられるという。
その場で予約を入れた。

2013年2月9日土曜日

電話

土曜日はいつもお昼ぐらいまで寝ている。
私は寝ることが大好きで、旅行先でも、特に予定がないと、
お昼ごろまで寝てしまうぐらい、寝ることが好きだ。

この日も例に漏れず、寝ていると、午前11時ごろに携帯電話の着信音で起こされる。

「○○ですが、こちらは××様の携帯電話でしょうか?」

2日前に検診を受けた施設からだった。

「乳がん検診のエコーで、悪性を完全に否定できない影が見つかりました。
紹介状と撮影したエコー画像を宅配便にてお送りします。
1ヶ月以内に、乳腺外科で精密検査を受けてください」

寝耳に水とはこのことだ。
とはいうものの、どう考えてもあのエコー検査の長さは異常だった。
やっぱり、という気持ちもその後すぐに浮かんできた。
電話を切ってから、しばらく呆然とする。
眠気もどこかに吹っ飛んでしまった。

「私、乳がんかもしれないんだ……」
自分の置かれている状況をやっと理解しながら、まずは、乳がんの精密検査について、猛烈にインターネットで調べ始める。
精密検査の内容はもちろん、その結果、悪性と確定診断が下る確率も。

しかし、どの施設に行けばいいのかがよくわからない。
大学病院だと、時間もかかるようなので、できれば診断までは、クリニック的なところがいいのではないかと考え始める。

私は友達が片手で数えられるほどしかいないので、相談できる相手も限られる。
そのうちの1人に(私の中では一番古い女友達でシングルマザー)、
評判がよい乳腺外科はないかと聞いてみる。

いくつか紹介してくれたんだけど、ホームページなどで調べてみたが、教えてもらったクリニックでは、自分が得たい結論をきちんともらえないかもしれない可能性が見えるのと、最終的に手術などが必要になった場合に、紹介してもらう病院をある程度選べるところがいいと、だんだん自分の希望も分かって来た。

いくつかクリニックを絞り込んだのちに実家に帰る。
母に現状を告げる。
そして、近所の102歳でなくなったおばあちゃんのお通夜へ。

昨年の11月に私も92歳の祖母をなくし、その祖母と仲がよかった近所のおばあちゃん。
私の祖母がなくなってから、ほどなくして、近所のおばあちゃんも逝ってしまった。

残った祖父は軽い認知症で、母は介護に疲れ果てている。
父も元気ではあるものの、もともと色々な持病を抱えている。
もし、私ががんになってしまったら……。
色々不安がよぎる。

でも、とりあえずは精密検査を受けなくては。

2013年2月7日木曜日

検診

毎年のように、この時期は会社から促されて検診を受ける。
本当は12月中に受けないといけないんだけど、大抵年末は仕事が詰まっているので、どうしてもこの時期になってしまう。

40歳までは普通の生活習慣病予防検診で、今年も例に漏れず。
それに任意で婦人科検診(乳がんの視触診と子宮頸がんの触診と細胞診)を付けられる。
さらに、自費で乳がん検診などを加えられるので、そろそろ年齢的にもまずいよなということで、去年はマンモグラフィーを受け、今年は超音波検診(いわゆるエコー)にしてみた。

検診の日。一番最初が乳房のエコー。
右胸から始まって特に問題なく、すぐ左胸に。
と、左胸の左上を何度も何度も検査して、終わらない。

「あ、やばいな」

なんとなく、これは非常にまずい状況なんじゃないかということを直感する。
恐らく、角度を変えて、何枚も何枚もその画像を撮影している。

技師さんに
「最近検査を受けたのは去年のマンモグラフィーですか?
エコーは久しぶりですか?」
と聞かれる。

「はい。エコーは実は8年ぶりです」

そう。私が最初に受けた乳がん検診は、節目の年に受けた人間ドックだった。
そのとき、確か左胸に「のう胞」という診断があったなぁということをふっと思い出す。

やっと検査が終わって、不安になった私は技師さんに、聞いてみた。
「エコーを受けていないっていうことを、わかるものなのですか?」

すると、「いいえ、みなさんにしている質問ですよ」と。

それ、たぶん違うんじゃないのかなと思いつつ、次の検診項目へ。
そして、他の項目は滞りなく。
最後に行った乳がんの視触診も「はい、大丈夫ですね」で終わり。

あ、これならきっと大丈夫だよね、何も問題ないはず。
検診センターを後にする。


本当はこのブログ、まったく違うことに使っていたんだけど、
いろいろあって、復活。
あまり面白くない話ですが、記録のために淡々と書いてみる。

2013年1月31日木曜日

どうも!

私も乳がんの方のblogを見る際に、どんな方が書いてるのかと思うものの、あえて、あまり身分は明かさずに書いていきます。

このBlogを作ったのは、以下の理由からです。
・友人や知人にいちいち乳がん歴をお披露目するのが面倒なので、ここで知ってもらいたい

  • 乳がんの診断や治療がどうやって進んだのかを記録しておきたい
  • そもそも乳がんでは、どんな治療が現在行われているのか(標準治療)をまとめたい
  • 標準治療以外でも、知っておいた方がいいと思われる情報などをまとめたい
  • 私が乳がんに対して思っていることは、他の人にとっては「どうでもいいこと」です


ちなみに、私の乳がんが発覚したのは30代後半です。若年性乳がん(35歳以下)ではないのですが、乳がん年齢としては、まだ若めです。結婚もしておらず、子供もいない、シングルで、普通に社会人として仕事もしておりまして、職業が少し専門的なのですが、年齢なりのキャリアを築き上げているつもりでした。この先、「お一人さま」で生きて行く覚悟はすでにありましたが、そこに「乳がん」になるという予定はありませんでした(あたりまえですね)。乳がんが発覚してからなんとなく描いていた将来はもろくも崩れ去り、この先の私の人生は、どうしたものか?と悩みましたし、今でも悩んでいますが、なんとかやっていくつもりです。もともとこれまでも適当に生きてきたので、この先もそんな感じでいきたい。ただ、自分の病気とは、真剣に向き合っていきたいと思っています。

コメントなどは受け付けていませんが、直接私を知っている方はいつでも直接質問してください。

※2013年7月27日追記
コメントは受け付けないつもりでいたのですが、ちょっとなし崩し的にコメント欄というのを作ってみることにしましたので、ここも一応コメント書けるようにしてみました〜。